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「なあ、リリィさんよ。ちょっと俺達の恰好、あんまりよくないんじゃないか?」
俺の後ろをさっきの年パスの写真をみてにんまりしているリリィさんに俺は聞いた。
「え? なに? ほっぺにチュッてした方がよかったかな」
シーラカンスの絵柄の年パスのカードに夢中で俺の話を聞いていない。そんな事案を通り越して事件になるような真似やめて下さい。社会的に消されてしまいますから。
俺とリリィさんは釣り竿とクーラーボックスを担いで水族館の中を歩いている。水族館と釣り竿って、一つ間違うとヤバい組み合わせの様に感じられ、そして、周囲の視線も結構突き刺さるので、同じ境遇にあるリリィさんならばと俺は聞いたのだ。
「大丈夫よ。相手は水槽の中なんだし、獲りようがないじゃない」
「それもそうだね。気のまわしすぎか」
「そうよ」
でも、この水族館……外に……
「リリィさん……ここ、魚獲れそうじゃない?」
「うん、そうだね」
外に、砂浜の、浜辺と磯を再現した。海とつながって本当の波がやってくる館内の人工浜辺があって、そこに泳ぐ魚たちを釣りしに来たように見えた。
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