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自分は、嘘吐きだ。
耐え切れなくなり、“それでは先生はこれで”と立ち去ることを選んだポーラ。自分は、最後まできちんと“先生”でいられただろうか。彼女たちが理想とする天使を演じ切れただろうか。
年々、この役目が耐えられなくなっている。
何から何まで嘘だらけのこの園で、先生として、生徒達に嘘ばかりを教える生活が。
――何が、立派な天使、よ。
自分の左肩を、ギュッと強く掴む。この背中には何もない。ただ、“天使の羽根を模した飾り”をくっつけた服を着ているだけだ。本当に飛べるはずもない。園の中では飛んではいけないルールだと言って、子供達を納得させてはいるけれど。
天使などいない。子供達は天使見習いなどではない。ただ端に、親から捨てられた子や売られた子を集めてきただけ。全員ただの人間だ。
修行などない。彼らの末路は奴隷か、臓器をバラバラに引き抜かれて売られるかのどちらかのみ。此処を出て戻ってくることができるのは、悪魔に魂を売って“教師”になることを選んだ人間だけである。
神様などどこにもいない。
女神、セヴァンナ。副神のチャーチル、ジョンソン、ステファニー。全て全て、自分達の“取引先”の主人の名前に過ぎない。彼らは誰ひとりそれを知らないのだ。自分達は天使でいずれ羽根が生えてくると思っているし、修行に出されれば神様に仕えるお役目が待っていると信じている。自分達が、そう教え込み、洗脳してきたがゆえに。
高い壁は彼らを守るためなどではなく、彼らの脱走を防止するための鳥籠でしかない。
――嘘吐き。此処にいる大人は、嘘吐きばかり。……自分も同じように捨てられた子供だったくせに……私も結局、嘘吐きの大人になってしまった。
この世界に神様も天使も悪魔もいない。
いるのはただ、悪魔よりも最低な人間達だけ。
許しを請いたくなる情けない喉を抑えて――ポーラは今日も、天使の仮面を被って歩くのだった。
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