箱庭のアレクシア

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「でも、忘れちゃだめよアレックス。あの翼を私達天使が与えられるのは、あくまで神様と下界の人間達の役に立つため。自由に好き勝手にどこにでも行っていいってことじゃないんだからね」 「わかってるわよエリザ。役目を違えた天使は、神様にきつーいお仕置きをされるんでしょ。中には地獄に落とされる子もいるって」 「そう。地獄って、本当に恐ろしいところなんだからね。聖書通りならそう……一切ご飯を食べさせてもらえないとか、生きたまま火に焼かれるとか、十字架に貼り付けられてカラスの餌にされるとか、毛虫やゴキブリが大量に入った桶に鎮められるとか……世にも恐ろしい責め苦がたくさん待ってるんだから。嫌でしょ、そんなの」 「嫌嫌嫌、絶対嫌ー!もう、想像させないでよエリザ!」  聖書、と聞いてアレックスは内心青ざめていた。この園では基本的に、聖書を教科書とし勉強させられることになる。文字の読み方や書き方、天使としての在り方や道徳などなど。神様の教えは絶対で、天使はそれを忠実に守り、人間達を導くのが仕事だ。要するに、聖書の内容を覚えるのは天使としては基本中の基本なのである。  残念ながら、アレクシアはお世辞にも勉強が得意な方ではなかった。予習復習をきちんとやっておかねば、日頃の授業についていけなくなってしまう。わかっていても、授業が終わるといつも眠くなってベッドに沈んでしまうのだ。シャワーを朝に浴びているのもそのせいだったりする。夜寝る前に風呂に入っておけば、朝にもう少し余裕をもって行動できるというのに。 ――ど、どうしよう。近くテストやるって言ってなかったっけ?試験範囲も覚えてないわ……!  アレックスの様子に、何かを悟ったのだろう。エリザはため息をついて言ったのだった。 「……この間約束したわよね?次に赤点取ったらもう助けないわよって」 「ええええエリザー!!」  ああ、テストなんて、勉強なんて人間だけがやればいいのに。  どうして天使の世界でも、当たり前のようにそんな試練が存在しているのだろうか!
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