箱庭のアレクシア

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 ***  自分達の世界では、神様が四人ほどいる。一番上の神様がセヴァンナで、教えの名前も“セヴァンナ教”というらしい。この世界を最初に作った神様であり、神様が最初に作った三人の人間が残る三人の神様に転生した――ということだというのだ。  女神・セヴァンナと、その三人の従者である副神。自分達天使見習いは、最終的にその四人のうちの誰かの元へ修行に出ることになるのだという。  修行の内容は、自分の番になるまでは教えて貰えない。正確にはこの園を離れて修行の場所に連れて行かれて、初めて自分がどの神様の元につくのか、どんな修行をするのか教えて貰えるということらしかった。そのせいか、園にいる天使見習いの子供達の間では憶測が飛び交うことも少なくない。例えば。 『天使の修行では、とにかくひたすら神様の泉から水を運ばされるんですって。で、雲の上からそれを下界に落とすと、その場所に雨が降るの。どの地域に雨を降らせてどの地域を晴れにするか、その練習をさせられるんだって話』  であったり。 『神様の庭園には、禁断に苺が大量に生っているらしいの。ほら、神話に出てくる人間たちが食べてしまった恐ろしい木の実にそっくりなんですって。本当に美味しそうで、甘い匂いがするものだから、天使にとっても大きな誘惑となる。でも絶対食べちゃいけない。その誘惑の果樹園を、ひらすら掃除させられるのが修行なんじゃないかって……』  であったり。 『人間の世界に一度降ろされて、人間に交じって生活するように命じられるらしいわ。人間の生活を勉強して、今の人間がどんな文明を営んでいるのかを分厚いレポートにまとめて神様に報告するの。それが修行なんですって』  であったり。  残念ながら、どれ一つとっても根拠はない。というのも、修行から戻ってきたのはこの園で“先生”として就職することが決まった天使ばかりであるし、その先生達もどんな修行をしたのかは絶対に教えてくれないからだ。神様にきつくきつく、秘密を守るように言いつけられているのだという。 「私は、“禁断の苺”が一番有力情報だと思ってるの」  眠気を誘う授業の後の、休憩時間。  廊下を歩きながら、エリザはアレクシアにそう告げた。 「天使たるもの、人間をより良い方向に導いていかなくちゃいけないわけでしょ?なら、欲望にすぐ負けるような天使は天使失格だわ。欲望や願望をいかに抑えて、天使としての清廉な魂を保つことができるか?それを試される修行に違いないわ」 「欲望かあ。……どうしよう、それだったら私、困るわ。苺大好きなんだもの。普通の苺でさえ、見ていると涎出てきそうなのに」 「アレックスってば。それじゃあ、いつまでたっても修行に呼ばれないわよ。欲望を抑えこむ術を身につけなくちゃ」 「ええ。そんなのどうすればいいの……?」  欲望を抑え込む。言うほど簡単なことではない。
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