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……と、こっそりと布団を剥いだ駈に、低く掠れた声が掛かる。
「ん、かける、起きたの……?」
背を向けていた英が、ごろりと寝返りをうつ。
「あ、ああ……」
駈はぎくりと身体を強張らせると、そそくさと布団の中に身体を戻す。
彼の薄い色の髪がさらりとその目元に掛かる。深く沈む琥珀の瞳にぼんやりと覗き込まれ、その気怠い色気に駈はごくりと唾を飲み込んだ。
英は寝ぼけているくせに、駈のそういう変化にはいつも目ざとく、フッと口元に笑みを浮かべる。
「あれ、もしかして……足りなかった?」
「いや、べつに、そういうわけじゃ……」
乾かさないままの湿った髪に指を差し込まれ、言葉とは裏腹にさあっと肌が甘く粟立つ。
そのままいたずらな指に耳の裏を愛撫され、駈は飛び出しそうになった声を噛み締め、ぎゅっと目を瞑った。
……だが、いつまでたっても待ち望む感触は訪れず、駈はこわごわと目を開ける。
英は駈の頭に手を乗せたまま、すうすうと穏やかな寝息を立てていた。
「…………っ」
じわじわと襲ってきた恥ずかしさにひとり身悶えていた駈だったが……どうにかその熱をやりすごすと、目の前の男をじっと見つめる。
その目元にはうっすらと隈ができていて、駈は何だか申し訳ない気持ちになった。
「……お疲れ様」
吐息だけでそう囁く。
そして、こんな体勢じゃ寝づらいだろうと、自分の頭に置かれた手をどかそうとしたのだが……駈は伸ばした指先に感じた硬い感触にハッと目を見開いた。
慎重に掴んで下ろしたその薬指に輝いていたのは、駈とお揃いの指輪だった。
「いつ付けたんだよ、これ……」
そう呟きながら口元が自然と綻ぶ。
駈が寝た後、この指輪をわざわざ取り出して指に嵌めた彼を想像すると、胸がくすぐったくなるような心地がした。
雑に閉められたカーテンの隙間から、未だ降り続いている雪が見える。
白く煙る街の灯りが乱反射して、英の指輪を淡く煌めかせた。
「――」
素面ではとても言えないようなそんな愛の誓いでさえ、今日は不思議と溢れ出てしまう。
駈は数時間前、英が駈にそうしたように彼の手を優しく持ち上げると、薬指にそっと唇を寄せたのだった。
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