dominante_motion

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「このアルバムについて、駈はどう思ってるの?」 「えっ、俺!?」 何となくそう来るような気はしたが……いざ面と向かって感想を求められ、駈は目を白黒させる。 「いや、何だよその反応……そりゃ気になるに決まってるでしょ。というか、もしかして、まだ聴いてない……?」 訝しむような目を向けられ、駈は「まさか!」と声を張り上げた。 「お前から貰ってすぐ聴いたっての!」 「じゃあ、なんでそんなに渋るんだよ」 「いや別に、渋っているとかそういうんじゃない、けど……」 「けど……?」 「……」 「……駈的には、それほど良くなかった、ってこと……?」 ……そう言われてしまえば、もうこれ以上引き延ばすことはできなかった。 「いや……良かったよ、とても」 駈はとりあえずそう言うと、一つ深呼吸をする。そして、「セルフカバーの方からでもいいか?」と呟いた。 「あの三曲を聴いて思ったのが、相当細かくアレンジし直されているなってことだった。お前の声にしっかりマッチしていて、英の歌として完全に生まれ変わったように感じたよ。まぁ、そもそもがお前のしたい音楽じゃないのは分かってるけどさ、それらのお陰でだいぶ取っつきやすいアルバムになっていると思うし、俺は結構気に入ってるよ」 「あ、ありがと……」 「で、メインのオリジナル曲の方だけど……もう、パッと聴いただけで、楽しんで作ったんだなっていうのがめちゃくちゃ伝わってきてさ。音の一つ一つが生き生きと輝いてるし、曲の構成にも必ずどこか工夫や驚きがあるしで、これぞサヤマスグルだよなって、聴いててなんかワクワクしてきちゃってさ……って、何だよその顔」 「……や、ちょっと、キャパオーバーで……」 英は駈の首筋に顔を埋めると、はーっと熱のこもった息を長く吐いた。 駈は「お前が照れるなよ」と呆れた後、「でも、本題はここからだから」とぼそりと付け足した。 「……本題?」 不思議そうな英に、駈はこくりと頷く。 「あのさ……もし、これが俺の勘違いだったら、聞かなかったことにしてほしいんだけど……」 おかしな前置きをする駈に、英は相槌を打って先を促す。 駈はそれでもまだ言い辛そうにしていたが……揺れる水面を見つめながら、一度閉ざした口をゆっくりと開いた。 「あのオリジナル曲の中にさ、一つ……俺が昔作った曲のオマージュ的な曲、あったりしないか……?」 「……」 ピチャン、と水滴がお湯の中へと落ち、高い天井へと反響する。 英は黙ったままだった。 「おい……どうなんだよ」 とうとうしびれを切らした駈は、肩口に縋りついていた英を睨み付けた。 すると、英はおもむろに顔を上げながら、濡れた髪をざっと後ろへと流す。 そして、不満と不安で口を尖らせている駈へ、とろりと眉を下げて微笑んだ。 「やっぱり……駈には、敵わないな」
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