dominante_motion

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「駈の言っている曲って、『04**』だろ?」 その四桁の数字に、駈は迷いなく「ああ」と答える。 英は小さく笑うと、「駈の言う通りだよ」と囁いた。 「駈、覚えてるかな……俺を初めて、視聴覚室に連れていったときのこと」 「あっ……」 その言葉に、遠い日の記憶が鮮やかに蘇る。 同級生が流して騒いでいた曲がきっかけで、英にそれのパクリ元の曲を聴かせたこと。その曲のことで、まるで接点がないと思っていた彼と話が弾んでしまったこと。その後、英にせがまれて、ひとつだけ自作の曲を聴かせたこと―― 「今だから言うけどさ」 「……ん?」 思い出に浸りそうになっている駈へ、英は小声で語りかけた。 「実はあの時、俺……作曲なんてこれっぽっちも興味無かったんだ」 「は……はぁ!?」 今更明かされた真実に、駈はぐるりと首を回して男を睨む。 英は「ごめんって」と謝りながらも、「俺、どうしても駈の作った曲、聴いてみたかったんだよ」と情けない顔をした。 「……なんだよ、聴いて馬鹿にしてやろうとでも思ったのか?」 意地悪く駈がそう尋ねると、英は「んな訳ないだろ!」と声を荒げる。 「まぁ、でも……その時は、そこまで深い理由はなかったよ。駈があんまり必死に隠すもんだから、逆に気になってさ」 「……」 ごめんな? と呟かれ、駈は黙って首を振った。 英はふわりと目を細める。 そして、その白い首筋へと唇を落とした。 「で、あのデカいパソコンから流れてきた音が……俺の人生を変えたんだ」 英はそう言って、駈の胸元へと片腕を回す。 駈は高鳴る心臓と熱を上げていく身体を何とかごまかしたくて、フン、と笑うと身体を捩った。 「ったく、大げさなんだよお前は……っ」 「大げさなんかじゃないさ」 英はそう言い切ると、全身を赤く染めて固まる駈の横顔をまっすぐに見つめた。 「駈の作ったあの曲と出会わなかったら、間違いなく、今の俺は無かった。だから……あの曲は俺にとって『宝物』なんて言葉じゃ生温いぐらい、特別な存在なんだ」 「英……」 「……ってことをさ、このアルバムの感想を聞いた後にバラして、驚かせてやるつもりだったんだよ。それがまさか……先に駈に気付かれるなんてね」 よく分かったな、と感心する英に、駈は少しだけムッとした顔をする。 「そりゃ、気付くに決まってんだろ」 「えっ、でもメロディーとかはそこまでかぶってないはずだけど」 「だって、明らかにお前が使うコード進行じゃないんだ。おかしいな、って思うだろ? それに……」 駈はそこまで言って、もう一方の手を浴槽から引き上げると。 「お前に聴かせる曲を、そう適当に選ぶわけないだろ」 目の前の太い腕に、自分の手をそっと絡ませた。
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