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いやらしい水音と鼻にかかった声が蒸気の立ち込める空間に反響する。それに駈は耳を塞ぎたくなりながらも、激しく求めてくる唇を拒みはしなかった。
荒い息を混ぜ合うキスをしばらく続けた後、二人は熱く濡れた唇をようやく離す。
英の太腿に乗り上げる形で貪り合っていたせいで互いの興奮ぶりは火を見るよりも明らかで、駈は思わずそこから目を逸らした。
と、英の指が駈のそれへと伸びる。
「あっ!」
軽く触れられただけで大きな声が出てしまい、駈はその手を咄嗟に掴んだ。
「……やっぱり、ここでするのか?」
「えっ、ダメ?」
「いや、ダメ、っていうか……俺、もうのぼせそうなんだけど」
すると英はニヤリと笑うと、駈の耳元へと顔を近づけた。
「俺はとっくにのぼせてるけどな……駈にさ」
「……」
「…………あれ?」
「あれ? じゃないっての……」
一瞬にして弾け飛んだ淫らな空気に、駈はげんなりと肩を落とした。
「お前さ……マジでそのオヤジくさいセリフ、どうにかしろよな」
「えっ、そんなによくなかった?」
「逆にあれでどうしていいって思えるんだよ……」
すっかり冷めてしまった駈を盛り上げようと唇を近づけてくる英を押しやりつつ、駈は心配と呆れの入り混じった表情で男を見やった。
「お前、顔が良いからって何でも許されると思うなよ。そのうち、お前を慕ってくれてる子からも見向きもされなくなるんだからな」
「いや、そんなこと思ったことすらないけど……っていうか、その俺を慕ってくれてる子って誰だよ?」
「誰って、その……さっき、お前が言ったんじゃん。あの、ライブを見に来てほしいって頼まれたっていう……」
「ああ、あの子ね。……って、あれは全然違うって!」
「……違う?」
「まぁ、慕ってくれてることには慕ってくれてるけど……なんでも、小さいときに亡くなったあの子の父親に、俺が似ていたらしくってさ……って、なに、駈、もしかして妬いてた?」
「なっ……! バカ、そんなわけ……っ、ん、んん……っ!」
うなじからつつ、と背筋を掠めていく指の動きに、駈の口から切ない呻きが漏れる。
「へぇ……それじゃあ、身体に聞くとしますか」
「……お前、絶対いつか、テレビの生放送とかでやらかすからな」
「まさか、そんなことあるわけないって!」
「……それ、完全にフラグだぞ……あ、ッ~~!」
悪戯な指がさらに下へと滑り落ちてきて、駈の腰がびくんとしなる。
「ほらやっぱり、身体は正直だな~」
「……」
にやにやとだらしない顔で覗き込んでくる英に、駈は無駄な抵抗だと知りつつも睨まずにはいられなかった。
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