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「あれ、久しぶりじゃん、カケルくん」
いつものバーで酒をちびちびとやっていると、肩にするりと手が回される。
照明が絞られているのもあるが、正直誰なのかピンとこない。それが顔に出ていたんだろう。男は帽子を取ると、その緑の髪を摘まんでみせた。
「あっ、なんだ……タクヤさんじゃないですか」
そう言うと男は「ひどくない?」とからからと笑った。
「で、どう最近。いい男見つけてる?」
「全然。仕事が忙しくて」
「そっかぁ、それは残念」
男は隣のスツールに腰掛けると、マスターに「同じので!」と声を掛けた。
「そういうタクヤさんはどうなんですか」
「俺も全然ダメ。まぁ、遊ぶやつはいるけど……基本、見る目無いんだよね。キミと同じ」
既に多少酒が入っているのか、上機嫌な彼につられるようにして笑う。
彼とこのバーで初めて会った時のことを思い出す。
勇気を出して入ったここで、真っ先に声を掛けてくれたのが彼だった。
もの慣れた雰囲気の彼は初心者丸出しの駈にも優しく、そのたれ目がちの瞳で微笑まれると楽しくて酒が進みに進んで……気が付くとベッドの上だった。
「あの時は笑っちゃったよね、まさかお互いネコだったなんて。でも、慣れてないカケルくん可愛かったから、そのまま食っちゃえば良かったかも」
「何馬鹿なこと言ってんですか、こんな地味で根暗なやつ……」
「ちょっと、また卑屈になってない? というか今日暗くない? 大丈夫?」
「え、いや、別に……」
「マスター、元気が出そうなやつ一つお願い! あ、ソッチの元気でるんじゃないやつね。俺にはビール!」
いつもの調子でタクヤがオーダーする。
「はい、ジンバックお待ち」
ダンディなマスターが威勢よく差し出したカクテルは、ピリッと刺激のある飲み口だが酸味が爽やかで飲みやすかった。
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