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それから何杯飲んだのだろう。
久々の心地よい酩酊感に、つい口が滑ってしまう。
「タクヤさんって、誰かに嫉妬することって、あります?」
マスターとのおしゃべりに興じていたタクヤは、駈のつぶやきに視線を戻す。
「嫉妬?」
「はい」
「それって、もちろん恋愛?」
「あ、いや……それ以外も、あるとして」
カウンターに上半身を沈めながらぼそぼそと付け足す駈に、タクヤはううん、と唸る。
「そうだなぁ……まぁ、無かったわけじゃ、ないかな」
「意外ですね」
「そりゃ、俺だって初めから腕に自信ありなワケないんだからさ~」
「じゃあ、誰に嫉妬したんですか」
「なによ、ぐいぐい来るじゃん……まぁ、同期だよ」
「同期……」
駈の頭に英の姿が一瞬よぎる。
タクヤは手の中のカクテルをくるくると揺らしながら語り始めた。
「正直、先輩が指名取って売り上げ出してんのって、当たり前っちゃ当たり前でしょ。でも、同じ時期に入ってきたやつがさ、俺より早くカットデビューしてて、それを目の前で見せつけられちゃうとね」
あれは相当キたなぁ、とタクヤは目を瞑った。
「で、がむしゃらに頑張って、お客が付くようになって。そうなればそうなったで、自分より売り上げ良いやつにムカついたりもしたけどさ……でも、いつの間にかそういうの、どうでもよくなっていたんだよね」
「どうして、ですか」
「うーん……なんていうか、自分は自分、っていうの? 月並みだけど。自分がやりたいことやれてるなら、それでいいかな、ってね」
寝そべったカウンターテーブルから見上げるタクヤの横顔が、ペンダントライトに輝いている。
「あれ、聞いてる?」
「……聞いてますよ、もちろん」
「で、どうだった? 参考になった? 俺、結構イイこと言ったでしょ?」
グッと顔を近づけられ、駈は腕で顔を覆う。
「はい……聞いて損しました」
頭上でまたからからと笑う声がした。
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