dominante_motion

5/178
前へ
/178ページ
次へ
それから何杯飲んだのだろう。 久々の心地よい酩酊感に、つい口が滑ってしまう。 「タクヤさんって、誰かに嫉妬することって、あります?」 マスターとのおしゃべりに興じていたタクヤは、駈のつぶやきに視線を戻す。 「嫉妬?」 「はい」 「それって、もちろん恋愛?」 「あ、いや……それ以外も、あるとして」 カウンターに上半身を沈めながらぼそぼそと付け足す駈に、タクヤはううん、と唸る。 「そうだなぁ……まぁ、無かったわけじゃ、ないかな」 「意外ですね」 「そりゃ、俺だって初めから腕に自信ありなワケないんだからさ~」 「じゃあ、誰に嫉妬したんですか」 「なによ、ぐいぐい来るじゃん……まぁ、同期だよ」 「同期……」 駈の頭に英の姿が一瞬よぎる。 タクヤは手の中のカクテルをくるくると揺らしながら語り始めた。 「正直、先輩が指名取って売り上げ出してんのって、当たり前っちゃ当たり前でしょ。でも、同じ時期に入ってきたやつがさ、俺より早くカットデビューしてて、それを目の前で見せつけられちゃうとね」 あれは相当キたなぁ、とタクヤは目を瞑った。 「で、がむしゃらに頑張って、お客が付くようになって。そうなればそうなったで、自分より売り上げ良いやつにムカついたりもしたけどさ……でも、いつの間にかそういうの、どうでもよくなっていたんだよね」 「どうして、ですか」 「うーん……なんていうか、自分は自分、っていうの? 月並みだけど。自分がやりたいことやれてるなら、それでいいかな、ってね」 寝そべったカウンターテーブルから見上げるタクヤの横顔が、ペンダントライトに輝いている。 「あれ、聞いてる?」 「……聞いてますよ、もちろん」 「で、どうだった? 参考になった? 俺、結構イイこと言ったでしょ?」 グッと顔を近づけられ、駈は腕で顔を覆う。 「はい……聞いて損しました」 頭上でまたからからと笑う声がした。
/178ページ

最初のコメントを投稿しよう!

707人が本棚に入れています
本棚に追加