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この世には六つの性がある。 それらは男女性とアルファ、ベータそしてオメガとに分けられている。才色兼備なアルファ、全人口の八割に相当する所謂普通なベータ、さらに男女関係なく妊娠することのできるオメガとそれぞれに特徴があり、特にアルファは国の中枢機関を牛耳っていた。 由緒正しきアルファの家系であり多くの優秀な人材を排出してきたリオンヌ公爵家に、その日初めてオメガが生まれた。 世間一般からは按図索駿と蔑まれるオメガが生まれてきた記録はリオンヌ家には一切ない。つまりオメガは生まれてすぐ殺されていたのだ。 しかし現当主は生まれてきた赤子を殺すことはなかった。彼は妻を労り、赤子を抱いて、その将来が良きものになることを深く祈った。 なぜならばオメガであるはずのその赤子にはアルファにしか持つことのできない多くの魔力が内包されていることを感知していたからだ。 その赤子は少年となり、毎日机に向かって筆を走らせ、剣を振るい、その素質を磨いた。彼はアルファである兄姉の幼少期と比べても目覚しい成長を遂げた。誰もが彼をアルファと疑わなかった。 そうして第一次性別検査を迎えたのだ。 「先生っ嘘ですよね!この子がオメガだなんて!!」 エルは隣で母親が赤い髪を振り回し、医師に掴みかかる様子を横目で見ながら立ち竦んでいた。 手に持つ紙には皺が寄っており、震えている。 「落ち着いてくださいっ」 「落ち着いてられるものですか!何よりこの子にはアルファである証に魔力があるのですよ!?」 「それは、わかりません…。ですが彼はオメガです。発情期も必ず来ます。妊娠もできます。そういう身体の造りになっているのです」 医師が言い切ると、エルの母はへなへなと床に座り込み、みっともなくすすり泣き始める。 エルは母親を落ち着かせるために、母が自分によくしてくれたように背中を優しく擦ろうとした。しかしそれに気づいた彼女はエルの手を跳ね除けて赤い瞳を吊り上げた。エルの白い手は瞬く間に赤く腫れ上がる。 「触らないでちょうだいっ!穢らわしい…!!」 「も、申し訳ございま…」 「誰が口を開いていいと言った!?」 母親は今度はエルの右頬を強く叩く。エルは頬を腫れた手で抑えながらちらりと母を見ると、彼女は金の刺繍が施された白の手拭いを取り出して手を拭いていた。 エルは頬や手よりも心が痛むのを感じた。 それからの母親の行動は早かった。 彼女はまずエルをオメガと診断した医師を殺し、彼の家族には身内を殺した罪を問わせ無期懲役にまで持っていった。 それから幸いにも性別検査には彼女とその侍女以外現場にはいなかったため、長年連れ添ってきた侍女を自殺に追い込み性別検査の書類を偽造した。 エルは戸籍上アルファとなったのだ。 一刻の休みも与えられることなく、エルは母親に教育された。身命を賭すほどの努力をし、立派なアルファに成長していく。 しかし一度の軽いミスでも起こせば、母に怒鳴り散らされていた。 「エル、どうして、どうして、どうしてどうしてどうして!!!」 母親は鞭を片手に半裸のエルを詰る。 「なんでこんな簡単な問題も解けないのよっ!だから!オメガは!!嫌なのよ!!!」 そうして踵の高い靴でエルの腹を蹴りあげて、青紫の痣ができた場所をぐりぐりと刺していく。 エルは声が出そうになるのを我慢し、体を丸めて、ただただ耐え続けた。 そんな日々を過ごし、エルは学校の高等部に入学する歳になった。 「あなた、エルに学校はまだ早いわ」 「そう言って中等部も見送っただろう。高等部くらいさすがに入れてやらないと可哀想だ」 「でもエルは身体が弱いじゃない!心配よ」 「ずっと君がそうやって看ていられるわけではないだろ。何よりエルは賢い子だ。大丈夫さ、君と私のふたりで支援すればきっとね」 エルの父は母に説き伏せるが、彼女はまだ納得しなかった。 父はもちろんのことエルがオメガだと知らず、優しくほかの兄妹同様に接してきた。エルはそれが父が自分のことをアルファと思い込んでいるからだと知っている。 それに万が一にアルファだけが通う学校で発情でも起こせば確実にリオンヌ家の汚点になるためエル自身もあまり気が進まなかった。 しかしリオンヌ家の子息が高等部にさえ入学しないというのも少々家柄的にも問題がある。体が弱いだけでは言い訳にはならず、経済的に問題があるのでは、などと言い囃されても困るのだ。 結局エルは高等部に入学することになった。 貴族のアルファしか通うことのできない初等部から高等部まで設置している王立ハースフェリオ学院にはふたりの兄も在籍しているから大丈夫だろうと。 不安の念を抱きながらも、エルは王立ハースフェリオ学院入学式という看板が立てかけられた仰々しい門を潜った。 パリッとした紺色の制服に身を包み、忙しなく歩く生徒たちの間をすり抜けて歩いていると、エルは校舎と少し離れた所にある桃色の花弁を散らす大きな木に目を奪われた。もっと近くで見たいと切実に思い、エルは人の波から抜けて桜の木に近づいた。木の周りは桃色の絨毯のように花片が敷き詰められている。 エルは今まで母に人の目に触れてはいけないと言われ、殆どを自室で過ごしてきた。母以外の家族と会うのは一年に一度くらいだ。 当然桜を一度も見たことがなかったエルは、自分が今目にする幻想的な情景に感嘆していた。 (もっと…もっと近くで、) エルはどんどん桜の木に近づいていく。 自分でもわからないほどに、勝手に身体が突き動かされる。心を殺して生きてきたエルにとってこのような衝動に駆られることはもちろん初めてだった。 そうして漸く桜の木の下に行こうとした矢先、そこに先客がいたことに目の前に来て初めて気づいた。それほど桜に夢中になっていたのだろう。 しかしエルは桜よりもその下にいた青年の方によりいっそう心を奪われた。 身長は同じくらいだが、切れ長で曇り毛のない美しい瞳に、太陽の下で煌めく絹のような銀色の髪に、彼の持つ全てに心を奪われてしまったのだ。 どくどくと脈打つ左胸を抑えながら今まで抱えたことの無い感情に戸惑い固まるエルを、青年はその存在には気づいていても瞳に映すことはなかった。 入れ違うようにその場に去っていく青年の後ろ姿を捉えることしかエルにはできなかった。 しかし運命のようにエルは彼と再会した。 (まさか同じクラスだったなんて…!!) 一言も話したことのない人間にこんなにも惹かれたことのないエルは青年に夢中だった。 同じクラスでさらに隣の席など必然に違いないと疑わなかった。彼の性格を知るまでは。 「……さっきから視線感じるけど、何か用?」 青年は藍色の瞳を鋭く光らせて、エルに目を向ける。エルは彼と目が合うことでさらに鼓動が早くなるのを感じた。 何も喋らず、ただただ此方を見てくるエルに青年は苛立ちを覚えたのか、眉間に皺を寄せる。 「…何か用?」 強い口調で再度同じことを問う青年にエルは体を強ばらせる。 確かに青年とは目が合っているはずなのに、青年の瞳に自分が映っていないことにエルは気づいた。 「い、いえ…先程桜の下にいたのは貴方ですか?」 エルは同じ容姿であるのに、桜を見て美しく儚げに微笑んでいた青年とは全くの別人に見えてしまい思わず口にする。そんなエルに青年は嘲笑うように鼻を鳴らして口元を歪ませた。 「それがなんだというんだ。もしや俺に一目惚れでもした?悪いけど、俺には自分の生を犠牲にしても良いと思うほど愛しい人がいる。君じゃない、愛しい人がね」 光のない瞳に射抜かれて、エルは顔を紅潮させる。正直、彼が言ったことは全て図星であったが、告白するつもりだってなかった相手に先に振られるなんて思ってもいなかった。 周りの生徒もふたりのやり取りを聞いていたのか、クスクスと小声で話し出す。 エルはその場の空気に耐えられず、思わず教室を飛び出した。 赤い瞳に涙を浮かべてあてもなく走るエルの行き着いた先にはレンガ造りの古い建物があった。 中に入るとそこが教会だと初めて気づく。エルはこの教会に入ったことはもちろん、見たことだってない。そのはずなのにそこは先程までひどく鳴っていた心臓は落ち着き、エルに安らぎを与えてくれる。 エルは教会にゆっくりと足を進めた。木製の長椅子に挟まれた金と白の絨毯の上を歩きながら、上を見るとそこにはステンドガラスで作られた天井があり、濁った空模様を隠すように色とりどりに輝く。 エルは誘われるように祭壇に最も近い長椅子に腰を下ろして、空を見上げた。 「…ずっとこのまま、時が止まればいいのに」 「それは無理だろ」 なんとなしに呟いた言葉に思いもよらない返事が来て、エルは勢いよく振り返った。ひとりだと思っていたのに、人がいるとは思わなかった。 振り返った先には、あの青年ほどではないにしても金髪碧眼の整った顔をした男がいた。髪は短く刈り上げており、吊った瞳からは力強い生命力を感じる。 見るからに硬派で軍人といった見目をしているとエルは感じた。 「時は止めることも戻ることも先に行くことだってできない」 「知ってるよ」 「そうか」 男は静かに歩き、エルの隣に座る。しばらく置かれた沈黙にエルは居心地の悪さを感じるていると、男は口を開いた。 「さっきはランスが悪かったな」 「ランス?」 「お前が話した奴だ、銀の髪の」 「あー…、お前が謝ることじゃない。それに彼に愛されたいと思ったのも本当だし」 エルが正直に言うと、男は目を丸くする。 エルはそんな男の様子を見て、思わず吹き出してしまう。 「ははっ!お前は思ったことが顔に出やすいな」 「そんなことない。俺は表情を読みにくいとよく言われる」 「でも今お前が思ったことわかったよ。俺が彼に惹かれたこと、認めるなんて意外だーって顔してた」 「…正解だ」 男は少し不服そうに自分の顔をぺたぺたと触っていく。エルはさらに大きな声をあげて笑ってしまった。 それからエルは男とたくさんの話をした。 男の名前はリュカで、体を動かすことが好きで、トマトが嫌いなどと色々なことを聞いた。エルはリュカと共に過ごす時間が楽しくて、入学式もサボってしまった。母には既に知られてしまっているだろう。それでもエルは母に鞭で打たれるより、リュカとの時間を優先した。 「ランスは良い男だろ」 リュカは突然今まで話題に出なかった青年の名前を出した。エルは少しドキッとしてしまう。 「できないことはないと断言できるほど優秀な奴で、俺はずっと隣で見てきたが嫌なとこなんてひとつもなかった」 「ひとつも?」 「あぁ、ひとつも」 エルはリュカがランスのことを信頼しているのだと感じる。確かに今日初めてランスと会い、恥だってかかされたのにも関わらず、エルはランスを嫌いにはなれなかった。きっと彼をもう一度目にすると、また惹かれてしまいそうなほどに。 「昔から大人のような子供で賢い奴だった。俺は生まれた時からランスのそばに居たが、あいつはどんな物にも興味を示さなかった。だから今日、愛しい人がいると言ったのは本当かどうか怪しい」 「…そうか。でもなんでその話を俺に?」 「エルとランスは何となくだが、相性が良いと思う」 「でも俺は公然の前で振られたんだぞ?あんなことを言われた手前、俺は彼に近づけないし彼もそれを望んでいると思う」 何よりエル自身もランスとはあまり関わりたくないと思っていた。 「…エルがそう言うならそうなのかもしれないな」 リュカは小さく呟いたあと、ランスの話をやめてまた別の話題を出した。 ふたりは空に星が浮かぶまで互いのことを語り合った。 翌日、エルは覚悟して教室に入ったが思ったよりも静かだった。昨日ランスに振られた時点でも揶揄してくる人間はいたため、それなりに言われることを予想していたのだが肩透かしをくらったような気分だ。 エルはリュカと軽く挨拶を交わして席に座る。ランスはエルの方を一瞥もせずに、分厚い金の刺繍が施された本を読んでいた。 それからエルはできるだけランスを視界に入れないように生活した。そうしていると半年も経てばランスを見ても目が離せないほどに心臓が踊るようなことはなくなっていた。 リュカとの関係も良好で、ふたりで古い教会で昼食をとるなど打ち解けていった。 またエルの体貌は高い身長に男らしくはないが整った顔立ちと実にアルファらしく、周りの生徒もエルがオメガだと気づく人間はいなかった。 定期試験では常に上位の成績を収め、友人も程々にでき、もう自分はアルファではないのかとエル自身も錯覚してしまうほどに充実した生活を送った。母からの連絡も一切なく、エルは心置きなく学生を楽しんだ。 そして高等部一回生の秋。 よく自習室として使っていた空き教室に、今日もエルは足を運んだ。教科書を机いっぱいに広げて勉強に取り掛かる。 そうして数時間くらい経過した時、エルは全身が火照り、疼くのを感じた。力が抜けて椅子から落ちて、床に這うように倒れる。 (発情期だ──…) そう思った時はもう既に遅かった。 教室内はオメガ特有の甘いアルファを誘う匂いで充満している。 「…ぁ、あぅ、は、ぁ、あっ」 未発達である後孔に無意識に手が伸びる。意識の中では嫌だと叫びながらも、本能に抗うことはできない。 エルは床に桃色に色付いた乳首を上下に擦り付けながら、腰を浮かせて柔らかい双丘に隠された小さな蕾にその白く長い指を入れていく。 「…ぁ、だれ、か、…っある、ふぁ…ぁ」 指の動きをさらに激しくし、太く熱いアルファのそれを埋め込みたいという欲情に駆られる。 (ちがう、ちがう!おれは、俺はアルファだ、オメガじゃない!おれは、おれは…) 頭の中では否定しながらもエルはその衝動を止める術を知らない。陶器のように美しいその顔を涙でどろどろに歪めながらエルは尚も手を、体を動かし続けた。 そうしてエルは生臭い白濁を散らした。 それでも甘く火照った身体は鎮まらない。 エルは肩で息をしながら、未だ熱い体を横に倒した。するとエルの目には見覚えのある錠剤があった。 急いで錠剤を飲み込み、鞄に入っている水を必死に飲む。しかしその水はエルの震える手によりほとんど口から滴り落ちていった。 「…はぁ、はぁ、…っはぁ、」 即効性の抑制剤のおかげでなんとかエルは身体の落ち着きを取り戻し、仰向けに床に倒れた。空き教室なだけにエルしか使わない部屋は少し埃っぽい。 エルは抑制剤の入っていた包装シートを手で握り締めながら、オメガ性の恐ろしさを実感していた。 エルはリュカと距離を置くことを決めた。 このまま彼と一緒にいれば、育ててはいけない感情が芽生えることを確信した。 「おい、エル!エル!!」 リュカはエルに突然避けられることに納得いかなかった。普段は落ち着いているリュカが大きな声を出すため、周りの生徒も驚いてそちらに目を向ける。 「なんで、お前!…お前、なんで俺を避けるんだ」 リュカはエルの肩を掴み、引き止めるが、その肩が震えていることに気づいて口調を和らげる。 「避けてなんかない」 「じゃあなんで無視した」 「無視なんてしてない、気づいてなかっただけだ」 「じゃあなんで教会に来なかった」 「先約があっただけだ」 エルの淡々として返事に、リュカは眉を顰める。 しかしリュカと目を合わせないようにしていたエルにはその表情を読み取ることができなかった。 「離せ、この後また用があるんだ」 「……俺の何かが駄目だったのか?」 「だから用があるだけだって」 「なら用がない日は一緒にいていいのか?」 「……」 リュカの問いにエルは答えることができなかった。 そして颯爽と去るエルに、リュカもまた声をかけることができなかった。 (これでいいんだ、これで…) エルはそう自分に言い聞かせながら、用もないのに時間を潰すために図書館に寄る。 空き教室と図書館はエルの拠り所になっていった。 そうしてリュカとの関係に亀裂が生じたまま半年の月日が流れ、ついに高等部入学から一年が経とうとしていた。 去年と同じように、桜は満開に咲き誇り、その花弁はエルの恋慕のように散っている。 エルは半年の間に一度も寄り付かなかったレンガ造りの教会の前にいつの間にかいた。自分の未練がましさに苦笑しながら、中に入る。 そこはあの時と同じどんよりした雲がステンドガラスを美しく見せていた。晴れた日も好きだが、曇った方がより魅力的に見えると思いながら、エルは祭壇に最も近いいつもの長椅子に座る。 そして天井に輝くステンドガラスを見ながら、ぼんやりとこの一年間を振り返っていた。 (リュカと過ごした一年間、いや、半年か…。毎日がキラキラと輝いていた) エルが思い浮かぶのはリュカとの思い出ばかりだった。離れていてもこんなにも気持ちが育ってしまった。一年も一緒にいたら一体どうなっていたのだろうか、そんなことを考えながらエルは左胸をぎゅっと抑える。 身体がかっかし、血が全身を巡る感覚を覚える。それはこの半年で何度も経験した劣情だった。 しかし予定よりもかなり早い発情期で、エルは戸惑う。 その間も、エルの身体は疼きを止めることはない。 エルは手馴れたように下着をずらしてしなやかな指を濡れた後孔に挿入する。神聖な場であるはずの教会でこのような行為は許されたことではないが、エルに考えられる余裕はもうなかった。 ずぶずぶと水音をたててエルは夢中に動かしていた。 その刹那、教会の大きな扉が音を立てながら開かれる。エルはその人物を認識できる状態では既になかった。しかしエルは感覚的に理解する。 「……、らん、す?らんす、らんっンん、すぅ…」 動きを止めることのない自分の指に感じながらも、エルは教会に入ってきたであろう相手の名を何度も呼んだ。 すると相手はボタボタと汗を床に垂らしながら、ゆっくりとエルに近づいていく。 そうしてふたりの距離を詰めようとエルが動いた時、生暖かいブレザーを顔にかけられて前が見えなくなった。エルは少し正気に戻る。しかしブレザーの良いアルファの匂いでまた卑猥な気分になった。 「……チッ、気持ち悪い」 聞き覚えのある声で、エルは自分の感覚が間違っていなかったことに気づく。 その相手、ランスは顔を赤くそして青く染めながら鼻を手で覆って悪態をつく。 「来るな、寄るな。これを早く飲め」 いかにもアルファらしい口調をするランスの言葉にエルは不思議に思う。なぜアルファであるランスがオメガ専用の抑制剤を持ち歩いているのかと疑問を持つが、そんなことも言ってられない状況のため、蠢動する身体を必死に動かし床に放られた抑制剤を飲み込んだ。 「あ、ありが…とう、」 震える唇を懸命に動かしながらエルはランスに礼を伝えた。しかしその場に既にランスはいなかった。 その代わりというように、リュカが教会に入ってくる。エルはリュカを見て、身体がまた疼くのを感じた。 「大丈夫かっ!エル!!」 リュカは床に這うエルを優しく抱きしめてきた。エルは心の底から安堵する。それと同時にリュカの番になりたいと欲望が湧いてくる。そんな自分に嫌になりながらも、口を止めることはできない。 「りゅか、ぁ、くるぢ…、たすけて、」 上澄るエルの言葉に反応するように、リュカの鼠径部が膨らむ。エルはリュカの首に白い腕を回してキスを強請るように唇尖らせる。 そしてリュカはエルの赤く熟れた唇を貪るように深く甘い口付けをした。 「ん…ぁ、もっ、と…」 「エル、好きだ…!エル、エルエル、ずっと好きだった、」 リュカは何度もエルの名前を呼び、唇を重ねた。エルの心はいっぱいに満たされる。 「おれも、ずっとリュカとこうしてたかった」 エルは回らない舌を必死に動かしながら、リュカの想いに答える。ふたりは愛を確かめ合いながら、一夜を共に過ごした。 そうしてその日、エルにはひとりの愛する番とふたりの何よりも大事な命ができた。
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