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初級のクリア報酬
「あ、あの、どこに行くんですか?」
行先も告げずに商業施設が並んでいる場所をゆっくり歩いていくレイに、ちはるは少し困惑していた。
声をかけると意外そうな顔をして立ち止まり、レイが振り返る。
「あれ、動き出す前に言ってませんでしたか? すみません」
二人がクエストを受注するでもなく、戦闘をするでもなく、ただ一緒に歩いている理由は、少し前に遡る。
それは、ちはるが初級チュートリアルのクリア報酬を確認した後の事だった。
クエスト12個全てをクリアした事で貰えたのが、「お着替えチケット」だったのだ。
どこでつかうんだろう、とちはるが首を傾げると、レイがしばらく考えた風にした後、「ついてきて」と言った事で今に至ったのだ。
説明をする前に目的地に着いたらしく、立ち止まった場所のすぐ横に入口のあるある、可愛らしい店をレイは手のひらで指し示す。
「ここは、そのチケットが使える対象のお店一つなんです。ちはるさんの今の服から好きそうな場所を選んだんですが、他にも店舗は……」
「ここでいいですよ、ありがとうレイさん!」
「……それは良かった」
レイは胸に手を当て短く息を吐いて、分かりやすく安堵の表情を浮かべる。
「ちはる」として可愛い服を選びたかった千尋にとっては、おそらく好みの服ばかりの店で、それを考えてここまで連れてきてくれたのか、と思うと嬉しくなった。
早速中に入ろうと思ったけれど、ちはるはついて来ようとしていたレイの方を向いて提案した。
「あ、服選ぶのは時間かかりそうですし、多分それで今日は終わっちゃうと思うので……別れるのは残念ですけど、今日はここで解散しませんか?」
一緒に服を選んでも、おそらくレイは付き合ってくれるだろう。
だが、「もう一つクエストをするには時間が足りない」と言っていたのなら、もうそろそろ疲労が溜まってくる頃なのではないかとちはるは感じた。
レイ自身も、いつもならログアウトしている時間を過ぎていた事に気付き、ちはるの言葉に頷いた。
「そうですね。私がいると待たせてるみたいになってしまうので選びにくいでしょうし。今日はありがとうございました、さようなら、ちはるさん」
「はい、また遊びましょう!」
笑顔でまたと言われて少し驚くも、つられてレイも微笑んだ。
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