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「……すっげぇ」
オープニングを見た知尋の口から零れた言葉は、それだけだった。
プレイする以前に何度もゲームの実況動画や、公式に配信されている動画でで見たこのオープニングムービーだった。
批評サイトやSNSでは『少々冗長である』と評価される事も度々あるこの動画。
だが、プレイした後からの評価は高く、多くの批評コメントは販売促進用のティザームービーとして公開されていたものを見た場合の反応だった。
正直な事を言えば様々なゲームをプレイしてきた知尋もありがちな設定を、長い時間プレイもせずにムービーを見せられるのか、と思っていた。
実際に体感してみて、知尋は驚いた。
風の感触、炎の熱さ、迫りくるモンスターの迫力、颯爽と現れた『ブレイズシフター』達の戦い。
そして光の壁が作り上げられる光景の美しさ。
最後の騎士の名乗りは、本当に目の前で行われているかのようだった。
大手ゲーム会社の本気の、片鱗。
最新の機器と合わさって初めて体験する事の出来る世界。
架空ではあるのだが、リアルがそこにはあった。
確かに興奮しているのだが、どこか驚きで放心状態にもなっているのか、知尋がぼうっとしていると次の画面に切り替わった。
光に溢れ暖かい雰囲気の建物の中。
いかにも冒険が始まりそうな木製のカウンター。
奥の壁にはこの世界の地図が貼ってあり、その横には下の方に大小幅も様々な本が沢山入った棚があった。
棚の上は板が外されており、奥で書類作業をする人たちが見える。
カウンターの中には、先程のオープニングに登場した騎士を軽装にしたような人物が二人。
見目麗しい女性キャラクターと凛々しい男性のキャラクターそれぞれが画面に現れると、二人同時に一礼した。
すると、二人の間、画面の真ん中、カウンターの下から球体上の機械めいた物体が飛びだしてきた。
画面をはみ出して上へ飛んでいくと、ヒューンという音と共に振ってきて再び姿を現すと空中で止まり、ガシャンガシャンと音を立てて変形を始めた。
たぬきのような、あらいぐまのような、なんだかよくわからないキャラクターになった球体が語り始める。
「ようこそおいで下さいました、私は冒険の手助けをするマスコット型インターフェース。タヌラグマです。親しみを込めて『タヌ』と呼んで貰えると嬉しいです」
SNSで「田沼田沼」と呼ばれているのはこいつか、と知尋は思った。
読み込み時間や落ちた場合にも現れ、メンテナンスの時にもお知らせ画面にも現れるので「まだか田沼!」「頑張れ田沼!」などと言われているのを目にした事がある。
愛されてはいるのだろうが「『タヌ』と呼んで」と言っているのは初耳だった。
今の所俺は恨みも何も無いのでちゃんとタヌと呼んであげよう、と思いながら見つめていると、田沼――タヌがまた喋りはじめた。
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