レイとの出会い

1/2

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ

レイとの出会い

ちはるは人が通らない壁際に寄って読み終えると、いくつかを進める為に、1つ目の内容「メニュー画面を開こう」のクリアを目指す。 真っ白でレースのあしらわれた手袋の下になっている腕輪のボタンを手探りで探して押す。 視界一杯に青で統一された電子的なデザインのメニュー画面が広がる。 小さめのポップアップ画面が開いて、クラッカーが鳴り紙ふぶきが舞い散るアニメーションと共に文章が表示される。 「★『チュートリアル:メニュー画面を開こう』をクリアしました。プレゼントBOXを確認しますか?」 ここは「はい」か「いいえ」が表示されているので、「はい」を選ぶ。 画面が遷移すると、「初心者用の剣」が追加されていたので、プレゼントを受け取る。 クリアするたびに小さめのポップアップ画面が開くらしい。 「★『チュートリアル:プレゼントを受け取ろう』をクリアしました」 同じ演出なのでサッと指先で触れると、プレゼントボックスに「初心者用の盾」が追加されて居たので、これも受け取る。 メニュー内の「装備」の項目を開き先ほど貰った剣と盾を装備する。外見に反映するかどうかを聞かれたので、「いいえ」を選んだ。 『武器を装備しよう』『防具を装備しよう』の二つをクリアした事が知らされ、今度は自分で画面を遷移してプレゼントBOXからアイテムを受け取る。 体力回復アイテムと状態異常回復アイテムを各一つずつ受け取り、これ以上メニュー画面で出来るチュートリアルは無いので閉じる。 このゲームでプレイヤーは「『魔界の炎』とモンスターに対抗する能力を持つ者・ブレイズシフター」として活動する事になる。 端的に言えば、「同じ場所から溢れ出てくるモンスターと魔界の炎がこれ以上広がるのを食い止め、人が住めるようにして街を維持」していくのが仕事だ。 基本的には 1.タヌ達が居るカウンターでクエストを受ける 2.クエストにでて目標達成、討伐 3.報酬で強化、経験値でレベルをあげ 4.より強いクエストに進む というスタイルの一般的なオンラインゲームだ。 次はクエストの受注の為、タヌ達の居るカウンターの方へ歩き出そうとして立ち止まる。 そして、まだ行動範囲は狭い状態なのが奥に表示された赤色の×印からはわかるのだが、一度周りを見回してみた。 頭の上に名前だけが表示されているのがプレイヤーキャラクター。その横に「(NPC)」と表示されているのがNPC――ノンプレイヤーキャラクターだ。 ×印の向こうでは、動画配信でよく見た事がある表情豊かなNPCキャラクターが手を振っていた。 今はオンラインで遊んでいる状態だが、ストーリーモード自体はオフラインでも遊ぶことは出来る。 期間限定のイベントはオンライン上のみとなり、仲間と協力してクエストに挑戦する事でより早く強くなる事が可能となっている。 それだけではなく、ソロでのプレイヤー向けに、フレンドや仲間を集めるのではなく、レベル帯を揃えてオンラインのプレイヤー同士をマッチングする「一匹狼」モードも搭載している。 現状このゲームはプレイヤーが多い為、「一匹狼」モードでも人数が揃い遊ぶ事が出来るし、マッチングしきれなかった場合はそのレベル帯で不足している役職のNPCが自動で参戦し戦闘に参加する。 これが普段は協力が必要なゲームを好まない人達の間で評判となり、他のゲームよりも多くのプレイヤーを獲得するに至っている。 戦闘時に関わらず、NPCの反応精度の高さもこのゲームの評判の一つになっていた。 固定のセリフのみを喋るのではなく、複数のパターンの返答を持つキャラ。 専用のAIが搭載されており、蓄積していく事で反応が変わっていくキャラ。 イベントスペースに該当する商業施設のキャラは特に気合いが入っており、公式否定しているのにもかかわらず『制作側で人間を雇っているんじゃないか』と言われる程の作り込みを行われていた。 『24時間絶え間なく生配信で同じキャラに突撃してみた』という動画配信者達のリレー企画があったが、発表自体はゲリラ的に、また有名無名問わず複数回行われても安定した反応を見せており、『間違いなくNPCである』という結論に現状では至っている。 もちろん、最初は大手ゲーム会社が数年間期間をかけて作成した新作VRとして話題になったのだが、これらの要素が合わさって、プレイヤーが定着しSNSでも良く見かける作品となったのだった。 本当にゲームを始めたんだなぁ、と目の前の光景を眺めながら頬が緩むのを引き締めて、ちはるはカウンターへと向きを変えて歩き出す。 ――その時だった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加