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(ライアー……嘘つきと呼ばれるべきなのは、ジャック・オ・ランタンでは無く、其方の目の前に居る某なのであるがな)
全身包帯巻きミイラ少女のグレイミーの作戦を聞きながら、ヴァンパイアのコフィンはフッと自嘲的な笑みを浮かべる。
何笑ってんのよっとグレイミーは訝しげに眉を顰めながらオレンジ色の瞳で彼を睨んだ。
「コフィン、あーた……あたしの話をちゃんと聞いてるっ!?この作戦が成功するか失敗するかで、あたし達の未来が変わっちゃうんだからねっ!?」
「聞いているのだよ、グレイミー……其方が人間界に降りた後、少し時間を空けてから某が彼奴にちょっかいを掛ければ良いのであるな?」
「うっ……き、聞いてるなら聞いてるで、笑ってないでちゃんと返事しなさいっての!まったく……あーたって本当、人間の時からそういう所あるんだからっ」
腰に手を当ててぷりぷり怒るグレイミーに、すまぬのであるなと微笑を返す。
「ほら、また笑うっ!」
「あまりにも其方の一生懸命な姿が可愛いものであるから、つい笑みが出てしまうのだよ」
「……キモいしっ!はあ、あーたと話してると頭痛くなってくるよっ。もう、あたしは行くからねっ!」
グレイミーはため息混じりに告げると、一足先に人間界へ降りていった。
彼女の背中を見送りながら
(本当は人間の頃と違って、元気いっぱいな其方の姿に感銘を受けているのだよ、グレイミー……いや、ジェイミー。そして、其方とまたこのようなやり取りをできる幸せを噛み締めているのである)
遠い目をして、昔のことを思い出すコフィンなのだった……。
「……ねえ、トラスト。パパはいつ来てくれるのっ?」
総合病院の病室。
真っ白なベッドの上で上半身だけを起き上がらせた少女は、オレンジ色の瞳で目の前に居る人物を見据えた。
換気のために開けられた窓から入ってくる風に、おさげに結んだ彼女の銀色の髪がふわりと揺れる。
「その内……だよ。私も連絡待ちなのだ……モルディ兄貴から連絡が来たら真っ先に其方に知らせるよ、ジェイミー。だから、あと少し……我慢してはくれまいか?」
「……あーたにそう言われて、もう何ヶ月待ってると思ってんのっ?あたしの体はいつどうなるのかわからないんだからねっ!気長になんて待ってらんないのっ!……こほこほっ!」
「ジェイミー!」
強気な口調で言った後に咳き込んだ銀髪少女グレイミーに、トラストと呼ばれた白髪の男性は心配そうに眉を下げて彼女の背を摩ろうとした。
大丈夫だからっとジェイミーは右手の平を前に出して彼を制止する。
「はあっ……はあっ……ちょっと一気に喋りすぎた……だけっ。ねえ、トラスト……っはあ……あーたはさ……浮いた話とか全然聞いた事無いけど……っ……そこのところどうなのっ?」
オレンジ色の瞳でジッと上目遣いで見上げながら訊くグレイミーに、良いのだよとトラストは目を閉じて首を横に振った。
「色恋沙汰など……私には無縁な話なのだ。ジェイミー、其方が元気になって退院できた時に考えるよ。だから、私のことは……心配しなくていいのだ」
「し、心配とかしてないけどっ!た、ただの興味……違うからっ!あーたへの興味じゃ無くて!話のネタってやつだからっ!」
「フッ……そんなに力いっぱい否定せずとも、わかっておるのだよ」
口元を綻ばせてウィンクしながら言うトラストに、わかってないしっとジェイミーは顔をほんのり紅くして突っかかる。
「あたしはねっ!あーたのことは全然……けほっ!」
「ほら、変に興奮するからまた咳が……私は今日はもう失礼することにするのだよ。ジェイミー……ゆっくり休むのだ」
トラストは右手で胸を押さえて涙目になるジェイミーに優しい声色で言うと、彼女をこれ以上興奮させないようにと病室を出た。
たまたま病室前を通りかかったナースが、こんにちはと会釈する。
失礼するのだよと彼もまた頭をさげて返すと、トラストはエレベーターを使って下へ降りて病院から出た。
そして、近くの公園のベンチに腰掛けた彼は、フゥと小さく息を吐く。
(私に礼を言う必要も謝罪をする必要も……本当に無いのだよ、ジェイミー。こんな嘘つきの……私になど)
ポケットから取り出して右手に携えたケータイに反射した自分の顔を見下ろしながら、一ヶ月前の悲報が彼の頭をよぎった。
『こちらはモルディ・スーサッド氏のお宅で間違い無いでしょうか?』
突然の見知らぬ番号からの電話……兄であるモルディと姪であるジェイミーと一緒の家に住んでいたトラストは、はいと電話の相手からの言葉を肯定する。
『私は弟のトラスト・スーサッドです。其方はどなたでどのような御用件であるか?……えっ。モルディ兄貴が……死んだ?』
兄の悲報を聞かされたトラストは途方に暮れた表情をして押し黙った。
(兄貴が……死んだ……。多額のお金をジェイミーに残して……。私は彼女に何と言えばいいのか……)
「告げることなど……できぬ。彼女が面会を待ち侘びている父親が死んだなどとは……口が裂けても伝えられぬ」
そう呟いた直後、トラストはガクンと膝から床に崩れ落ちた。
彼の赤い瞳から冷たい水滴が流れ出し、それは床にポタポタと落ちて黒い染みを作るのだった……。
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