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ピンクの末路
眉間に受けた圧に負けて後ろに倒れていくピンクの腕から、ミドリは由梨を奪い取る。
キーンとした短い耳鳴りの後、世界から音が消え去ったかのような静寂に包まれる。
音もなく地面に倒れたピンクを見届け、腕の中に納まるしっかりとした重みに、ミドリは視線を落とす。
しばらくすると由梨の控えめな泣き声が聞こえ出した。
抜けていくような、空気をふんだんに含んだ由梨の声。体力がなくなってしまっている。
だが、ミドリにはそんな由梨の危機的状況など察知できるわけもなく、ただただ由梨を取り戻せた安堵に口元を緩ませていた。
「グリーン……。ねえ……グリーン……」
弱々しく放たれたピンクの声に、しばらく反応を示さなかったが、次第に懇願するかのような声色に変わってきたので、ミドリは観念してその目をピンクへ向けた。
「どうして、僕の体、動かないのかな……。普段なら、首を吹っ飛ばされたって、平気なのに」
ピンクの瞳が、心なしか潤んでいるように見える。
いや、明らかにその目には確かな涙の膜が張っていた。
「あなたが……生きてるからだよ」
そう言って、ミドリは耐えられずに唇を噛み締める。
「何を、言ってるの、グリーン。僕は、ただのパンダの、ぬいぐるみだよ。パッションピンクの、ね」
「生きてたことに、したんだよ。私はあなたが……ただの人形だなんて……命のないぬいぐるみだなんて、これっぽっちも思ったことなかったけど、心のどこかで……考えの及ばないところで……あなたと生物との間に、くっきりと、線引きをしていたんだと思う」
そんな資格などないと、自覚しているはずなのに、ミドリの声は段々と涙声になっていく。
「でも、それをやめたよ? こんなんで償えるとも思えないし、もしかしたら想像以上に酷いことをしているのかもしれないけどね」
自分が何を言いたいのか、何を伝えたいのかまとまらない。
それでも言い訳がましく、何か言葉を吐き出していないと、大声を上げて泣き出したい衝動を抑えられない。
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