ミッション失敗

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ミッション失敗

 貴之は広大な屋上を険しい表情で駆けていた。  放つ余裕などないハンドガンを手に、後ろを警戒しつつ走り続けている。  迫ってくる厳かな足音は複数。  ヘルメットで顔の隠れた、警備隊のような連中に、貴之は追われていた。  貴之自身が一瞬確認しただけで20人は超えている。  アサルトライフルを持ち、弾除けの防具に身を包んでいる。  初夏の早朝の空は、太陽は見えずともいくらか明るい。   「くっそ……。アラフォー間近のおっさんにはキツいっての……」  アラフォーなどと言ってはいるが、彼はまだ34歳だ。  ましてやその身のこなしはそれ程衰えているようには見えず、むしろ若者に劣らない。  身長は180cmを超えており、捲られたグレーのスーツの袖からは、しなやかな筋肉を付けた血色のいい腕が窺える。  少し長めに残された襟足に汗が滲んでいる。 「おい! 早く何とかしろ!」  切羽詰まった声で、貴之は息も絶え絶えに怒鳴る。  耳にはめた超小型トランシーバーが彼の声を拾い、対の機械へと送る。 『無茶言うなって。数が多すぎるよ』  微かなノイズに混じり、気怠げな声が貴之の耳に届く。  貴之の声に応えたのは、彼の弟である博也だった。  彼は別の離れたビルの上で、スナイパーライフルのスコープを覗き込んでいる。 「何のためのスナイパーだ! 仕事しろ!」 『今何人に追われてるか分かってるわけ? 27人だよ?』 「いいから撃て!」 『しょうがないなあ』  苛ついたように声を荒らげる貴之に対し、博也は余裕な態度を続けている。  直後、貴之の後ろで驚いたような悲鳴がいくつか聞こえだした。  それに伴い、銃が地面に落ちる音も響き渡る。 『5人完了』  してやったりと言うような低い声で、博也が呟いた。  博也の放った狙撃銃の弾丸が、貴之に迫る警備隊の手首を掠め、銃を弾き、次々と戦力を削いでいる。 『兄貴屈め』  事務的に吐き出されたその言葉を合図に、貴之は片膝を地面に滑らせ、身を低くする。  貴之の頭の上を、警備隊のアサルトライフルの弾が風を切るようにして通過した。  その瞬間から、博也のカウントダウンが始まる。 『24。23、22……』  警備隊に対して、"命だけは"なんて選択肢は博也の中から消えた。  相手が殺す気なら、それ以上で返すまで。  貴之は素早く立ち上がり、狙撃に怯んでいる警備隊から距離を取る。  博也は一定のリズムでカウントを取りながら、的確に致命傷を与えていく。 『はい、殲滅』 「ナイス」  貴之が振り返ると、既にそこには銃を構えている者は一人も残っていなかった。  先程の猛々しさなど見る影もなく、血を流し、呻き声すらも上げずに横たわっている。  
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