単独行動

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「この子がいなくなったって、君の大好きなお兄さんは、娘を失ったその時ほど絶望はしないよ。だから、ね? もう、この子を僕にちょうだいよ」  先ほど貴之に向けられた目を思い出す。  あの憐れみの目を向けられた時、とてもショックだったし、とても恥ずかしかった。  あのどす黒い感情は、ブラックへの嫉妬だけではなかった。  期待が打ち砕かれたことへの苛立ち。  それが感情の正体だ。  由梨が貴之の娘でないと知って、秋穂が彼の妻ではないと知って、ミドリは胸を躍らせた。  貴之からの告白。そして、博也から伝えられた真実を聞いて、あの温かい眼差しや、自分の自由を望んでくれている思いやりが、恋慕の現れであったのだと、胸をときめかせた。  しかし、あの憐れみの視線を向けられた瞬間に、レッドを思い起こした。  あれほど自分に執着していたレッドが、永遠を誓う言葉を受け入れなかったことを思い出した。  虚勢を張ったあの言葉がレッドに受け入れられたところで、ミドリは困ってしまうわけだが、そんな矛盾は今はどうでもいい。  貴之から寄せられていた信頼も、友好的な態度も、些細な拍子に自分の愚かさを少しでも見せてしまえば、一瞬にして崩れ去ると言うことを思い知らされた。  何故自分が愛されているなどと勘違いしてしまったのか。  レッドに似た瞳を見せた貴之にもだが、ミドリは妙な勘違いをしてしまった自分自身に何より失望した。  恥ずかしくて仕方がない。 「そうだね……。その子、貴之の子供じゃないから……もう私が、醜い嫉妬と葛藤に苦しみながら救う必要はなくなったんだよね」  ぽつりと、ミドリは言葉を漏らす。 「もうどうでもいいよ」  ピンクのオーラが華やぐ。  その雰囲気に、ミドリは心の底から苛立った。  だがその苛立ちも、一瞬で自分の汚い心へと向けられる。  おもむろにミドリは右手を持ち上げ、指の形を鉄砲のように整えた。 「由梨ちゃんが誰の子供だとか、もう、どうだっていい事なんだよ」  ピンクが体を強張らせた気がした。 「……バン」  無表情でミドリがそう呟いた瞬間、銃口に見立てられたその指先から、火花を散らせて何かが勢いよく飛び出て来たかのような空気の動きを見せた。  その見えない何かは、ピンクの眉間を見事に打ち抜いた。  
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