6人が本棚に入れています
本棚に追加
/128ページ
二人と別れてまた歩き出す。今まで下を向いていた視線が少し上がり、聞かないようにしていた声に少しだけ耳を澄ませる。
「……」
気分がよくなるわけじゃない。だけど、悪い気もしない。
『もう授業はサボらないの?』
ヒロがニコニコしながらスケッチブックを見せてくる。
『二人で屋上にいる時間、けっこう好きだったんだけどなあ』
「あっそ」
ヒロとの出会いにも、再会にも意味があったのかどうかは分からない。
『冷たいなあ』
「もうそれは聞き飽きた」
『そんなに言ってないでしょ』
ヒロとヒーローを重ねていたあの頃。ヒーローなんてどこにもいないときめつけたくせに、今でもヒロと呼び続けるのはなぜだろう?
『移動教室?』
「うん」
『なんだ、屋上じゃないのか』
別に深い意味はないのかもしれない。本当のヒーローはどこにもいなくても、自分の信じたモノはヒーローになる。悪者にだって悪者のヒーローがいるように。
『サボるときはいつでも言ってよ』
誰にだって信じる誰かがいないと辛いんだ。
「はいはい」
「ほらー、チャイムなるよー?平原さんも急いだ急いだ」
私は振り返って一歩踏み出す。
「あ、平原さん」
踏み出した足を止め、また振り返る。
「信じてるよ」
その言葉に背中を押され、また振り返って今度は走り出す。
「……」
どこまでも青い春の空にひらりひらりと桜の花びらが舞う。春さえ終わらなければ桜だってずっと咲いていられるのに、春の終わりを祝福するかのように綺麗に散っていく。きっと桜は過ぎていく春を嘆くより、自分の人生を謳歌するのを選んだんだ。
目を逸らさずに刻みつけておこう。
なぜかそう思えた。
最初のコメントを投稿しよう!