3年目

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 二人と別れてまた歩き出す。今まで下を向いていた視線が少し上がり、聞かないようにしていた声に少しだけ耳を澄ませる。 「……」  気分がよくなるわけじゃない。だけど、悪い気もしない。 『もう授業はサボらないの?』  ヒロがニコニコしながらスケッチブックを見せてくる。 『二人で屋上にいる時間、けっこう好きだったんだけどなあ』 「あっそ」  ヒロとの出会いにも、再会にも意味があったのかどうかは分からない。 『冷たいなあ』 「もうそれは聞き飽きた」 『そんなに言ってないでしょ』  ヒロとヒーローを重ねていたあの頃。ヒーローなんてどこにもいないときめつけたくせに、今でもヒロと呼び続けるのはなぜだろう? 『移動教室?』 「うん」 『なんだ、屋上じゃないのか』  別に深い意味はないのかもしれない。本当のヒーローはどこにもいなくても、自分の信じたモノはヒーローになる。悪者にだって悪者のヒーローがいるように。 『サボるときはいつでも言ってよ』  誰にだって信じる誰かがいないと辛いんだ。 「はいはい」 「ほらー、チャイムなるよー?平原さんも急いだ急いだ」  私は振り返って一歩踏み出す。 「あ、平原さん」  踏み出した足を止め、また振り返る。 「信じてるよ」  その言葉に背中を押され、また振り返って今度は走り出す。 「……」  どこまでも青い春の空にひらりひらりと桜の花びらが舞う。春さえ終わらなければ桜だってずっと咲いていられるのに、春の終わりを祝福するかのように綺麗に散っていく。きっと桜は過ぎていく春を嘆くより、自分の人生を謳歌するのを選んだんだ。  目を逸らさずに刻みつけておこう。  なぜかそう思えた。
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