3年目

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 生きることは残酷で、一番難しい。  傷ついて、何度も自分をすり減らして、消えたくなっても生きないといけない。いろんな罪の償い方があるけど、これが一番難しい。 『授業始まるよ?教室に戻って』  ヒロとは違うクラスになってしまった。同じ教室にいても話すことはないけど、どこか寂しい。友利さんも、田中さんも同じ教室にはいない。 「起立!礼」  時間がゆっくりと進む。  教科書に載る偉人のように生きた証がどこかに刻まれるのなら、生きた意味もあると思えるだろう。  本当は分かってるはずなんだ。  生きた証が刻まれるから生きるんじゃない。ちゃんと生きた人たちの生きた証がどこかに刻まれる。教科書に、歴史に、瞳に、記憶に、心に。 『やっぱり君たちは似てる』  今までの人生を無下にしてきた代償だ。自分の物語だったはずなのに、記憶から抜け落ちていく。 「次の授業なに?」 「さあ、知らね」  誰もがきっと人生の大半を適当に生きてる。一生懸命に生きてばかりいたら疲れてしまうから。走って、歩いて、立ち止まって、振り返って、人それぞれだ。何をしていようとその人にとっては歩みだ。 『あ、平原さん』  友利さんがこっちを見て微笑みかける。少し前は変わって見えた友利さんも、友利さんであることに変わりない。友利さんなりに人生を歩んでいる。 『やー』  今度は田中さんが手を挙げながらやってくる。田中さんはずっと変わらないままだ。 「久しぶりだね」  私もこの二人と出会って少しだけ変わった気がする。本当に少しだけかもしれないけど、歩めるようになった。 『また今度、ゆっくり話したいね』 『ねー』  振り返ると、少しだけ足跡がついているような気がした。
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