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1年目
春。それは決して別れの季節なんかじゃなく、誰かと何かと出会うための季節。きっとそうだよね?
「……風が冷たいや」
空は青く澄み渡っていて、ここぞとばかりに太陽が存在感を出している。そのおかげで温かいけど、春風はやっぱり冷たい。
「よく来ていただきました。こちらにどうぞ」
「今日からよろしくお願いします」
懐かしいなあ。ところどころに時間の流れを感じるけど、あの頃と変わってない。
あの頃の思い出が走馬灯のように駆け巡る。本当にいろんなことがあった。
「久しぶりね」
「あ、湊崎先生。お久しぶりです」
「まさか教え子とこんな形で再会できるなんてね。こんなに嬉しいことはないよ」
湊崎先生。十年前にこの高校でお世話になった先生だ。
「それにしても大きくなったねぇ。見違えたよ」
「先生は変わりませんね」
「あら、そう?」
湊崎先生はあの頃から全く変わっていない。もちろんいい意味で。
「明日からこの学校で働くことになるけど、今はどんな気分?」
「いろんな感情が混ざり合ってます。今のところは不安が大きいけど」
「最初は誰でもそうよ。あなたならきっと大丈夫だから、自信を持って」
「はい」
明日から始まる教師としての生活。物事の始まりというのはいつだって緊張する。
学校の敷地内には十年前と同じように桜の花が綺麗に咲いている。
大丈夫、これから起きる楽しいことが私の不安を取り除いてくれる。どんなことが待ち受けているとしても、きっと、大丈夫。
「いつ心境の変化が起きたの?」
「え?」
「教師になりたいなんて、一度も聞いたことなかった気がするけど」
「それは……」
俯くな。
「いつか言われたことを思い出したんです」
「言われたこと?」
「先生に向いてるって。その言葉が忘れられなくて、気付いたら先生になってました」
「あはは。じゃあ、その言葉を言ってくれた人のためにも頑張らなくちゃね!」
「はい!」
明日からいろんな人の、私の新しい春が始まるよ。君と過ごしたこの場所で。
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