恋する資格と資格のない私

10/80
前へ
/80ページ
次へ
 でも、こうして目の前で、晶が女の子とキスを交わしているのを見ると、嫌な気分になった。嫌な気分になったのは、もちろん自分自身に対してだ。人を好きになるのも、人と付き合うのも自由だ。でも、女の子を好きな晶は、キスを交わしていて、相手の女の子は幸せな表情を浮かべていた。私は人を好きになってもキスを交わすことすらできない。  私と晶は、同じ方向の電車に乗り込んだ。目の前の席に座ると、晶は隣に座った。私と晶は、何も言わず、窓の外を眺めていた。膝の上に置いたバッグが振動して止まった。携帯を取り出すと、さっき会っていた男の人の名前を発見して、落ち着かない気分になる。 「真由は、今日、デートだったの?」  いつもより時間をかけた化粧に違和感を覚えたのか晶がそんなことを言った。 「デートってほどでもないけど、男の人と会ってた。ちょっと飲みに行っただけ」  私はなるべく軽い調子の口調に聞こえるように気をつけて言うと、下を向いた。そう。さっき会った男の人とは、ただ軽く飲みに行っただけで何でもない。口に出してしまうと、空しくなってきたのを感じた。 私はこれ以上、自分のことを聞かれたくなかった。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加