恋する資格と資格のない私

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 私が初めて人と付き合ったのは、大学を卒業して就職した頃だ。当時の私は、保険会社に就職したばかり。本社に配属されて意気込んでいたものの、毎日、大量の書類をチェックする仕事に疲弊していた。そんなときに出会った彼は、私にとても合った。会話のテンポも価値観も育った環境も似ている部分が多くて、一生のパートナーにできるんじゃないかっていう幻想を抱いていた。慣れない仕事で泣きたい気持ちになっても、彼も頑張っているんだと思うと、不思議とどんなことも乗り越えられた。  二人で夜景を静かに眺めていると、彼が突然、私の背後に回った。後ろから抱きつき、手を私の腰に絡ませたとき、全てがさめてしまった。彼の熱い体温と吐息が夏物の薄いワンピースを通じて、伝わってくる。私に向かってくるこの熱は一体、なんなんだろう。私の表情を見たのか、彼はすぐに私から離れた。彼の行動が理解できなくて、気持ち悪いとしか思えなかった。
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