恋する資格と資格のない私

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 ああ、やっぱり。この人も私を求めているのだ。この人ともう会えないことに気がついて、悲しい気持ちになる。と同時に、頭の隅でほっとしている自分に気がついて愕然とした。本当は、好きになりかけている自分がいて、前回のように傷つく展開になることを恐れていた。  送って行くという男の人の申し出を私は改札の前で辞退した。 「じゃあ、私、こっちだから」  新宿駅の改札で、すばやく改札に入ろうとすると、男の人が私を抱き寄せて、柱の陰で唇を合わせてきた。 「真由。また会いたい。すぐ連絡するから」  男の人が私の耳元で言う。引き寄せた腕の体温が洋服ごしにも背中に漂ってきて、言われようもなく不快だった。 「じゃあ、電車行っちゃうから。またね」  私は一生来ることのないであろう、「またね」を口にして、足早に男の人の元を去った。   数十分前までは、彼と話をしているのがとても楽しかった。それが、一瞬にして二度と会いたくないという気分に変わってしまう。改札に滑り込むとき、また、私の大切なものを失ったのを感じた。
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