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「茂野さん……?」
背中越しに伝わる体温を感じ取って、鼓動が再び不規則なリズムを刻む。
「俺の名前呼んで?」
「茂野、さん」
「下の名前」
少し不機嫌そうな声で、答えが被せられた。
深呼吸をして、また深く吸ってから唇を開く。
「恭一」
返事が返って来なくて、やはり呼び捨てはマズかったかと不安になる。
さん付けで、もう一度呼ぼうかと振り返ろうとすると腕にぐっと力を込められた。
「あ、あの」
「顔すげぇ赤くなってるから、ちょっと待って」
実を言えば私も名前を呼ぶ前から顔が赤くなっていたけれど、恥ずかしさというものは瞬時に伝染するもので、「はい」と小さく返事をした。
お互いの心音がすっかり落ち着いた頃、ゆっくりと振り返って茂野さんの顔を見つめて言った。
「お願い、一個だけいいですか?」
「うん。何?」
「来週から、一緒に帰れたらなって思って。仕事終わるタイミングが合えばでいいんですけど。その……、無理のない範囲で大丈夫ですから」
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