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ゆらゆらと揺れるのは私の気持ちだけかと思っていたら、視界も揺らめいていた。
「違うんです。あの……、嫌なんじゃなくて、いろんな感情がこみ上げてきて、勝手に溢れ出てきちゃって。だから」
「ごめん。もっと、ちゃんと気遣うべきだった」
持ち上げたブラウスの裾を元に戻したあと、茂野さんは私の頭に手を乗せると前髪を優しく撫でて、言った。
「泊まってく?って言いたいところだけど。送るから、支度してくれる?朝永」
声をかけたあとでソファから立ち上がって、まだ動こうとしない私を不思議そうに振り返ると、再び「朝永?」と、名前を呼んだ。
「さっき、“みやび”って呼んでくれました」
茂野さんは面食らったような表情で、口元を覆っている。
「……すみません、子どもみたいなこと言って。何でもないです」
少し口早に言いながらソファから腰を上げて、多少のスーツの乱れを慌てて直した。
鞄を取ろうと屈もうとした瞬間、後ろからウエスト周りに腕が伸びてきて、力強く抱きすくめられた。
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