10 side陸斗②

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10 side陸斗②

 お袋と話したその日に、彼女に別れを言った。嫌がって、揉めるかもしれないと、思ったけど、そこは、揉めずにあっさり別れられた。拍子抜けしたけど、そのままでも、自然消滅しそうな流れだったから、お互いに納得できた。  でも、そこからが上手くいかなかった。  月に1回ぐらいで実家に帰省したけど、加奈子には、会えなかった。月に2回帰っても、会えなかった。  だから、旅行のお土産を持って、伊藤家を訪ねたりしたけど、おじさんとおばさんしか居なかった。タイミングが悪くで、友達の結婚式のついでに、九州旅行に行ってるとか、友達のうちにお泊まりに行ってるとか、その後も、訪問するたびに居なくて、おじさんか、おばさんに加奈子の近況を聞いて、帰るだけになってた。  そのうち、加奈子が一人暮らしするって出て行ってしまった。避けられてる、そう思った。やっぱり、会いたくないのかもしれない。  おじさんに引っ越し先を聞いて、最寄り駅のそばに自分も引っ越しした。  ストーカーかよ、と思ったけど、実家でも会えないし、もしかしたら、偶然会えるかもしれないことに期待していた。  後で知ったけど、この駅は、南口と北口で生活圏が違っていて、偶然の確率はかなり低いことがわかった。  そのうち、おじさんにもおばさんにも俺が加奈子に会いたがっているのが、バレてしまった。  メールや携帯で、何で連絡とらないんだろうと、思われてたと思う。  関係が近すぎて、メールも電話もした事がなかった。直接会った方が早かったし、今更な感じだった。連絡先を聞きたいけど、聞けなかった。  実家にマメに帰って、ついでに伊藤家に顔を出す事が多くなったら、おじさんからスポーツ観戦に誘われて、時々、一緒に観るようになった。  おじさんは、球技全般が好きでテレビでもよく観てるけど、サッカーが1番好きだ。小さい頃は、俺と雪斗と加奈子を連れて、スタジアムに連れてってくれた。  加奈子は、おじさんと行く時は、スタジアムで、ゲームしてて、ちゃんと試合見てない時が多いと言ってたけど、それなりルールも覚えてたし、選手についても詳しかった。サッカーは好きだと思う。  おじさんが、気を利かせてくれて、サッカーの開幕戦に加奈子を誘ってくれた。  ホームの開幕戦を楽しみに待ってたら、加奈子にドタキャンされた。かなり落ち込んでしまい、おじさんにはかなり同情された。  そんな中で、大学の後輩が企業をマッチングする会社で働いてて、異業種のコラボを考えてて、ややネタ切れになってきたと話してた。次回は建物と健康にしたいから、建物の方は先輩の会社でどうか?と言ってきた。住宅だとしてもマンションや戸建て、公共や民間の建物を考えるとアバウト過ぎると思ったから、もう少し方向性を決めてから、話をもっていったら?と、言ってたのに、方向性を決めないところが、可能性を感じるらしく、俺の上司が前向きになって、話がまとまった。  後輩の関連もあり、自分が担当することになった。4月に入ってから活動する予定だった。たまたま後輩と飲んでたら、相手の会社が加奈の会社だとわかった。早いけど、相手の会社と情報交換したいと、担当者を教えて貰って連絡をとった。  あっちのリーダーの石川さんは、人当たりが良くて話上手だった。この人と仲良くなって、いずれ、加奈子に行きついたら良いな、というやましい気持ちがあった。  簡単にこちらのメンバーの紹介をしたら、石川さんもしてくれて、メンバーに伊藤という女性が参加する事がわかった。普段関わらない業種だし、3月末にメンバー皆で情報交換したい、顔合わせして、懇親会をする提案をしてみた。  日程やお店は、こちらで決めさせて貰い、会社に訪問させて頂く事も決めた。お店を検討するために、メンバーの年齢を大体で良いの教えて欲しいと言ったら、石川さんが全員の歳を言ってしまったため、加奈子である確率がアップした。石川さんが慌て、個人情報もあるので年齢言ったのは、内緒にして欲しいと言ってた。  加奈子の誕生日に日程を組んだ。  当日、会社訪問して、加奈子の驚いた顔にしてやったりと、嬉しくなった。  顔合わせも、懇親会も全て予定通りにスムーズだった。  後は、懇親会の終わりに加奈子を捕まえるだけだった。  懇親会が終わって、帰宅モードになってる加奈子のそばに寄って、加奈子に逃げるなオーラを出した。そして、皆に向かって言った。 「伊藤さんと話してたら、自宅が近いのがわかったので一緒にタクシーで帰ります」  石川さんに不審に思われたが、スムーズに解答できて、納得してもらった。石川さんは、加奈子の最寄り駅を知ってるんだ、とつまらないことが気になった。  その後、手を引いて家に連れて帰った。実家に帰るつもりだったはずだから、おばさんに電話して、了解もとった。  逃げられるから、というよりは、自分が手を繋ぎたかったから、手を繋いでいた。一生、この手を離したくないと思っていた。  ドアを閉めて、閉じ込めた。  今日は3月29日だし、加奈子は絶対、断らないと、確信してた。だから、加奈子を見つめながら、言った。 「今、彼氏いないでしょ。慰めて」  そして、抱きしめて、耳元でいった。 「キスしていい?」  加奈子がうなづいてるのがわかって、そっとキスをした。ずっと、ずっと、キスしたかった。キスをOKしてくれただけて、嬉しくてキスが止まらなかった。キスって、こんなに良かったっけ?  加奈子が恥ずかしそうに泣き笑いする姿が可愛くて、また、キスをした。  そして、そのまま手を引いて、ベットに行った。
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