11 side陸斗(過去)①

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11 side陸斗(過去)①

 俺と雪斗と加奈子は、3人兄弟のように育った。3人が仲良かったが、加奈子が俺を慕っていたことが、雪斗は何となく嫌だったのか、兄を取られたくなかったのか、いつも、俺と加奈子の間に入りたがった。  遊びでも、運動でも、初めに俺ができて、2人に教えてあげてたから、2人からの羨望の眼差しは、心地良かった。  親に面倒をみるように言われた訳ではなく、すすんで一緒にいた。    実際に3人で仲良く遊べたのは、俺が小学生までで、中学にあがると、前ほど、一緒に遊んだりは、出来なくなっていた。  でも、2人で俺の部屋に来て、勉強の邪魔したり、漫画読んだり、同じ空間で過ごしていた。  中3になって、俺が塾に行きだし、受験モードになっていたから、2人とも勉強してる時は、部屋に来るのを遠慮していたみたいだった。親父とお袋に言われたのかもしれない。  だから、雪斗が体調悪くなっていた事に、入院するまで、気が付かなかった。入院して、肺炎と言われても、直ぐに治ると思ってた。  あの頃、もっと一緒にいて、早く気付けば、違う結果になっていたかもしれないと、いつも後悔していた。    高校に合格して、通学時間が増えたけど、寄り道したりせず、帰宅して、可能な限り雪斗と一緒にいるようにした。  俺も加奈子も、雪斗の病気なんてないかのように接していた。3人の時間は、3人にとってずっと特別な時間だと思ってた。  そんな3人の時間は、高1のバレンタインからなくなった。加奈子から、毎年貰っていたチョコレートが貰えず、雪斗と加奈子が、付き合うことになったからだ。  初めは、ショックで落ち込んでたけど、雪斗は、学校の友達と疎遠になってて、雪斗はいつも、寂しそうだったし、いいんじゃないかな、と思ってた。  それでも、3人の時間が変わらなければ。  でも、2人が付き合い始めて、雪斗と加奈子の2人の空間に、入って行けなくなった。楽しそうな雰囲気や2人しかわからない会話に除け者にされたように感じていた。  加奈子のいない時間に面会に行くようになった。雪斗は、俺と2人の時は、加奈子の話ばかりした。今から思うと、仕方ないとは思う。学校に行ってなくて、会ってるのが加奈子だけだったのだから。  弟を取られた寂しさというよりは、加奈子を独占する雪斗に嫉妬してた。病気になって、加奈子と付き合えるなら、俺が病気になれば良かったと、思ったこともあった。  逆に、雪斗は、俺が羨ましかったと思う。健康で未来があるんだから、加奈子ぐらい頂戴と、言われてる気がした。 「加奈がマフラー編んでくれた」 「加奈が修学旅行のお土産くれた」 「今度、退院したら、加奈と水族館デートするんだ」 「加奈と交換日記始めた」 「加奈と喧嘩した」  加奈子との惚気を聞かされて、どんな顔をしたらいいか、わからなかった。たぶん、困った顔をしてたと思う。  雪斗は、だんだん、弱っていって、最後はほとんどベットで過ごしてた。   雪斗の治療は、大人になっていない雪斗の身体には、かなりの負担と苦痛だった。副作用の辛さに、死んだ方が楽じゃないかと、思う瞬間もあった。  俺だけの時には、治療をしたくないと、言っていた。でも、親父とお袋の前では、決して言わなかった。  お袋に「健康な子に産んであげられなくて、ごめん」と、泣かれて、逆に、「僕は治療を頑張る」と、慰めてた。  俺の前だけでも、弱音を吐いて欲しかった。でも、加奈子に1番話しやすかったんだと思う。俺にとっても、雪斗にとっても、加奈子は、家族のようで家族ではなかったし、1番身近で、近い存在だった。  雪斗には、俺が加奈子を好きなのはわかってだと思う。だから、最後にあんなことを言ったんだと思う。 「陸兄、バレンタインに加奈からファーストキスもらった」    嬉しそうに言う雪斗に、色をなくしたようになった俺は、何も答えられなかった。雪斗と加奈子の関係は、付き合ってはいたけど、友達の延長ぐらいに思っていた。キスでかってに、エロい想像してしまった。  嬉しそうだけと、消えそうな笑顔で、雪斗は言葉を続けた。 「陸兄、僕、加奈と同じ墓に入りたいな。  陸兄が、加奈に振られたら、諦めるけど」 「えっ、ど、どういう意味」 「僕の陸兄への遺言、僕の願い、希望だよ。  加奈と同じ墓に入りたいって」  その後、雪斗はだんまりしたから、俺も何も言わず、雪斗をじっと見てた。  それは、自分が結婚して、一緒の墓に入れないから、俺と加奈子が結婚して、笹木の墓に入って欲しいってことだよな。  雪斗はそれを本当に望んでるんだろうか。それでも、俺が加奈子を好きなままで、いいんだって、結論づけた。  死を前にして、雪斗はどんな気持ちでそんなことを言ったのかと、考えると切なかった。雪斗も俺と同じぐらい、加奈子が好きだった。  
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