14 side加奈子⑥

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14 side加奈子⑥

 私に縋り付いてくる陸兄を見て、ユキに似てると思う。やっぱり、兄弟だね。  陸兄をじっと見てたら、陸兄は、陸兄だな。変わってない、ずっと、変わってなかったんだと思う。成長して、大人になって、私の知らない人になったと思っていたけど、変わってないと、強く感じる。私とユキには、ずっと優しかったし、いつも庇ってくれて、守ってくれてた。  陸兄は、そんなに器用じゃないし、二股なんてできないのに、何で私はそう思ってしまったのか?と、笑えてくる。おばさんは、ずっと私の味方だったし、陸兄がそんな人なら、絶対反対してたもの。  陸兄は、たぶん、今も昔も、私が好きなんだと思う。私が陸兄を想うのと同じぐらい。だから、私に会おうとしてくれてたんだと思う。  ずっと、謝りたかったんだ、と切ないぐらいに伝わってくる。  指輪の話は、事実かも知れないけど、今、ここにいる陸兄は、私が好きだって、信じられる。  陸兄にそっとキスして、抱きつく。そして、耳元でささやくように言う。 「陸兄、大好き。今も昔も、ずっと大好き」    陸兄が、すごい嬉しそうな顔をして笑う。その笑顔にもう一度キスをした。    陸兄は、その後、全然何も喋らなくて、私が1人で喋ってた。陸兄は、時々、笑ったり、うなづいたりしてくれて、私は、陸兄の知らないユキの話をたくさんして過ごした。陸兄の前では、少し、ユキは、私でマウントしてたみたい。ちょっと、意外だった。    陸兄に帰らないで欲しいと言われて、もう1泊お泊りすることにする。でも、いろいろ用意したいから、私の家に着替えとお泊まりセットを2人で取りに行くことにした。  帰りに誕生日ケーキと夕飯の食材を買うことにして外にでたら、暗くてびっくりした。ユキの話をしてるとらあっという間に時間が過ぎちゃう。  夕飯は、テイクアウトにしようと、メニューを考えなから、2人で手を繋いで歩く。陸兄は、駅の北口には、ほとんど来ないようで、私のお勧めのお店を紹介しながら帰った。  私の部屋で、私がいろいろ準備してたら、陸兄は、私の部屋をじっと観察してた。実家の私の部屋には、入ったことがあっても、大人になってからの私の部屋は、入ったことがないから、想像と違って面白いらしかった。  テイクアウトは、ケンタッキーにして、ケーキは、イチゴのホールケーキにした。また、歩いて、陸兄の家に帰宅する。  風のない夜で、桜の花びらがくるくる回転して落ちてきた。紙吹雪のお祝いみたいで、祝福されてるみたいに感じた。  夕食の後、2人で1日遅れの誕生日会をした。陸兄から誕生日プレゼントを貰った。桃色の珊瑚がついたネックスだった。桜色でとても気に入った。  ずっと、会ってなかったのに、誕生日プレゼントを用意してくれてたことが、単純に嬉しい。  夕食とケーキの後は、陸兄も少しづつ話してくれた。陸兄自身のことを。  引っ越しは、年末は年末だけど、一昨年だったことに驚いた。同じ駅なのに、全く気がつかなかった。私のパパと随分仲良くなって、サッカー観戦や野球観戦に時々一緒に出かけてたことや、私のことをいろいろ教えてもらってたことも聞いた。  陸兄は前より、おばさんとユキの話をするようになって、ユキの遺言の話を聞いたって。ユキと加奈子がそんな約束してると、思わなくてびっくりして、加奈子ともっと話せば良かったと、後悔してた。  夜、2人でベットに入ってもっとたくさんユキの話をした。私の知ってるユキの話と、陸兄の知ってるユキの話。眠くなって目を閉じたら、陸兄は私が寝ちゃったと思ったみたい。私をそっと抱きしめて、小さな声で言った。 「加奈子、愛してる」  私はにーと、笑いながら、夢の中に落ちていった。  朝、起きたら、また陸兄に見つめられてた。にこにこしてて、機嫌良さそう。実家に帰るのは来週にして、今日は、2人でユキのお墓参りに行こうと、昨日、約束をしてた。2人だけで行くのは初めてだったから、ちょっと嬉しい。  ノビをして手で目を擦ったら、顔に硬い物が当たった。左手の薬指にダイヤの付いた指輪がはめてあった。 「陸兄、サプライズ好きだったの?」  ダイヤがついた指輪だった。綾吉さんがジュエリーショップで見たのは、これだったんだ。 ずっと、指輪を見ていたら。 「サプライズというよりは、断られないように指にはめて既成事実にしてしまおうと」 「嬉しい、ユキが喜ぶと思うから、今日つけてく」  陸兄は、ほっとした顔をしてた。 「雪斗が喜ぶかはわかんないけど、もし、断られたら、奥の手を使おうとは、思ってた」 「奥の手?」  陸兄はなかなか教えてくれなくて、お墓に着いてから、教えてくれた。 「雪斗の遺言。  加奈と同じ墓に入りたいって言ってるから、俺と結婚してって。  情けないし、言いたくなかった」  ユキ、陸兄にそんなこと言ってたんだ。  ユキは、私たちの縁結びの神様になったのか、と、笑えてくる。陸兄に屈んで貰って、耳に手を当てる。 「陸兄。  子どもにプロポーズのシュチュエーション聞かれたら困るから、H中とか、お墓とかじゃない、今度、ちゃんとしたプロポーズしてね」  陸兄の耳に小声で内緒話した後、ユキに指輪をもらった報告をした。ユキの計画通り進んでて、にんまりしてるユキがそこに居るみたい。    ユキ、ありがとう。
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