4 side加奈子③

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4 side加奈子③

 懇親会は、お洒落な和風のお店でスタートした。すごく雰囲気が良くて、鳥肉料理がメインのお店だった。  陸兄とは、1番離れた席で、少しほっとした。  懇親会は、アットホームな雰囲気をつくれて、来週からはスムーズに行くような気がしてきた。3人ぐらいづつのグループで、いろいろな話題に興じている。スポーツだったり、ドラマだったり。上下関係が、あんまりないので、楽しく会話できた。  陸兄の会社の三井さんって男性のサッカーオタク自慢は、ちょっと苦手だった。うちの会社の人たちは、私が何で話さないのか?と不思議そうにしてたけど、無理にふってこなかったから、スルーした。  パパがサッカー好きだから、私も小さい頃から、サッカー観ていて、普通の人よりかなり詳しいと思う。  サッカースタジアムにデートに来る人もいる。スタジアムに似合わなそうなミニスカートにヒールで、彼のために頑張ってオシャレしてきました的な女の子を連れた男の子は、一生懸命、選手やチームの説明するけど、女の子は、興味なさそう。その説明が、私にも聞こえて、所々、的外れで突っ込みしたくなる内容だったりする。そんなイラッとする感じが、三井さんには、あって、好きな選手も、ミーハーっぽい感じだったから、サッカー以外の話をする方がいいと思った。  いろいろな趣味の話を聞けて、かなり話が盛り上がった。山岳部に入ってたという田坂さんの話が面白かった。キャンプや山登りが好きというアウトドア好きの人は、結構いるけど、山岳部は本格的だと思った。インターハイがあるとは思わず、関心してしまった。リュックに装備を入れる時間だったり、放送で天気図書いたり、そんなところも競うなんて。早く、山登りするのを競うのかと思ったのに。  お話が面白くて、影響受けたのか、今年は富士山登頂にトライしたくなった。  後は、三井さんがお笑い好きで、お勧めの芸人を教えて貰ったから、今度、お笑いライブ見に行きたくなった。  そろそろ、終わりになりそうな気配で、終わったら、今日は、そのまま、実家に帰る予定にしてた。  お開きになり、皆でお店の外にでて解散のご挨拶をしてたら、陸兄が私の横にいつの間にかいた。 「伊藤さんと話してたら、自宅が近いのがわかったので一緒にタクシーで帰ります」  タクシーなら楽だから、それがいいね、って雰囲気になったけど、席が離れてたし、いつ会話してたんだろう?と、一瞬皆固まった。  課長が、不審に思ったのか、最寄り駅は?と聞いてくれた。陸兄が答えた駅が私の最寄り駅だったから、それなら、伊藤も宜しくお願いしますと言われ、皆と別れた。  皆と別れて、すぐ、陸兄に手をひかれて歩きだした。びっくりして、手を引こうとしたら、より強く、しっかり手を握られた。顔が熱くなってきて、耐えられなかった。 「陸兄、逃げないから、手を離して」 「逃げないって、言うことは。  わざと、俺を避けてたって事だよね」 「え、  」 「今週、俺が実家帰らないって、お袋に言ったから、今週は実家に帰るつもりだったんだろ」 「そ、  」  そうなんだけど、予定を言い当てられて驚く。今日は、ユキの命日だから、このまま実家に帰って、明日、陸兄の家に行くつもりだった。私が何も言えないでいると、陸兄は、ため息をついて、何処かに電話をしだした。 「夜分遅くにすみません。陸斗です。 今、久しぶりに加奈子に会ったんです。雪斗の話とか、積もる話をしたいので、今日はうちに泊まってもらうつもりで。 ええ、 はい、 はい、わかりました。はい、大丈夫です。 おやすみなさい」  え、何?何処に電話したの?私の家?今のはママ? 「どこに電話したの?」 「加奈子のおばさん」えええー、どういう事?うちって何処のうち?私が困った顔をしてたら、陸兄が爽やかな笑顔で、私の顔を覗き込む。 「おばさんが、何泊してもいいって。帰って来るのは、来週でいいってさ。んで、宜しくお願いしますって」  陸兄の足取りは軽やかで、大通りに出て、すぐ、タクシーを停めた。びっくりして固まってる私を先にタクシーに乗せる。陸兄は、ずっと窓の外を見ていたけど、タクシーに乗ってる間も私の手を離さないでずっと、握ってた。  タクシーに乗って運転手に告げた住所は、私の住所に近かった。私は、最寄り駅の北口側で、陸兄が言った住所は南口側だった。実家じゃない住所ってことは、陸兄の今の家ってことだと思うから、思わず、聞いてしまった。 「いつから住んでるの?」 「年末に引っ越しした。ずっと会えてないから、言う機会なかったし」 「・・・」   「この間のJ1の開幕戦。  おじさんと行く約束したのに、俺も一緒ってわかったら、ドタキャンしたでしょ。おじさん、加奈子が着席エリアがいいって言ったから、わざわざチケットとったのに」  ゔ、不自然じゃない形でキャンセルしたと思ってたけど、やっぱり、パパも陸兄も変に思ったのか、失敗。  ああ、だって、陸兄に会いたくないから、一人暮らし始めたのに。私に会おうとするってことは、結婚の報告かと思っちゃう。婚約指輪見てたなら、もう確定だね。どんな人だろう。陸兄の心を射止めた人は。可愛い人なんだろうな。おばさんは、会ったことがあるのかな。  どんどん気持ちが沈んでいった。いつの間にか、タクシー降りて歩いてて、陸兄の家のドアの前にいた。  カギで、ドアを開けててる動作で、はっと気付く、げ、付いて来ちゃた。タクシー降りたら、別々に別れようと思ってたのに。ここの場所、どこだろう?でも、駅に向かえば、帰れるから、何とかなると思う。どうにかして、帰ろうと思ってたら、玄関に押し込まれた。 「今、彼氏いないでしょ。慰めて」 陸兄の慰めては、セックスしようの同意語で、驚いて返事できなかった。今まで陸兄に「慰めて」って言われて、拒否したことは、1回もなかった。  どう反応していいか、わからなくて、どうすべきか、いろいろ考えていると。 「キスしていい?」って聞かれて、思わず、うなづいてしまった。 だって、ずっとキスしたかったから。陸兄を見上げたら、目が合った。私は、ゆっくり目を閉じた。    そうっと、陸兄の唇がおりて、初めてキスをした。  あまりにも幸せで、ああ、今日はユキからの誕生日プレゼントなんだと、思った。陸兄が結婚するとしても、今日だけでも私のものになって欲しいと思ってしまう。思わず、両手で陸兄にしがみついてしまった。陸兄も抱しめてくれて、陸兄の匂いに包まれる。ああ、この匂いがずっと好きだったことを思い出した。
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