7 side加奈子(過去)②

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7 side加奈子(過去)②

 私は、ユキのためにいっぱい泣いたけど、輪廻転生の希望もあった。最後にたくさんの時間を過ごせたし、ユキの苦しみがなくなることにほっとしていた。頑張ったと誉めてあげたい。   ユキの苦痛が、続く方が、私には苦痛だった。    でも、ユキが居なくなって、おじさんとおばさんより、陸兄が1番弱ってた。精気がなくて、憔悴して、痩せてった。  ユキが、「僕が死んだら、陸兄、慰めてね」って言ってた。いろいろ意地悪したから、落ち込んでると思うって。意地悪の内容は教えてくれなかったけど、意地悪はしてないと、思う。  陸兄が心配だったんじゃないかな。  陸兄は、生気がなくて、本当に弱ってて、どうしたらいいのかわからなくて、そっと抱きしめた。  陸兄も抱きしめてくれて、2人でずっと泣いてた。ユキが、陸兄の心配をしてて、慰めてあげてって、言ってたことを伝えた。  そしたら、陸兄は「慰めて」と、私にキスしようした。  私は、びっくりして手で唇を隠した。ユキの遺言を守ろうと思っただけだった。  でもその後、何でこんな事を言ってしまったのか、わからない。 「キスは絶対ダメ。 でも、キス以外なら、何でもいいよ」 「わかった」  陸兄は、キスせず、私を押し倒した。キス以外の何かは、中学生と高校生では、全然違った。たぶん、衝撃的で、苦痛で、パニックで、頭の中は、真っ白になってたんだと思う。あまり、よく覚えていなかった。  その時は、その時だけ、我慢すれば、済むことなんだ、と思った。  でも、陸兄は、その日以降も、キス以外を求めてきた。しかも、キスを拒否する事は、わかってて、キスの代わりにいろいろな要求をするようになった。そして、その要求がエスカレートしていった。  でも、陸兄に「慰めて」と言われると、拒否出来なかった。2回目以降は、避妊してくれたけど、日々怯えてた。学校で100%の避妊ではないと教わって、毎月、生理が来るたびに安堵して、遅れたりすると気が狂いそうだった。  私は、まだ中学生で、どうしたらいいかわからなかった。  半年ぐらい経ったころ、学校で男子生徒に告白された。「ユキを忘れなくていいから、付き合って」と、そう言われて、ああ、ユキが助けてくれたと思った。「忘れなくていいなら、いいよ」と返事をした。  陸兄に、「慰めて」と言われた時。 「彼氏ができたから、もうこういうことはできない」  私は、陸兄に終わりを言えた。  陸兄の表情がなくなって、青白くなった。 「・・・わかった」  陸兄に「わかった」って、あっさり言って貰えた。たぶん、陸兄も受験生だし、よくないことだと、わかっててやめられなかっただけだと思う。陸兄には、彼女がいたはずだし、きっと、ただ、言葉で慰め合う方が良いはずだ。  了承してくれて、ほっとした。その後は、私と接する機会も減っていった。自分が彼氏を作ったのに、陸兄が彼女と一緒にいるところを見かけたら、胸がチクリと痛かった。  でも、中学生の私には、妊娠するかもしれない恐怖の方が大きくて安堵してた。      告白してくれた彼は、一緒にいて楽しくはあったけど、自分とユキを比べてどっちが好きか?と聞いてきたり、キスしようとしてきたりしたから、「ユキを忘れられないから」と言って別れた。    一周忌が終わって、葉桜になったころ、おばさんとユキの部屋掃除をした。私は高校生になってた。そのとき、おばさんが私にユキからの伝言を教えてくれた。 「断捨離しようと思って。まだ、捨てたいものの方が少ないかもしれないけどね。欲しいものある?」 「欲しいものは、生きている時に貰ったから大丈夫」 「ユキ、加奈ちゃんに七回忌まで誰ともキスしないでって言っんだって?」 「ユキから、  聞いたの?」 「ふふ、あの子、言った後、後悔してて。でもキスはして欲しくなくて、悶々としてた。  でも、私に一周忌過ぎたら、その約束を取り消しするって伝えて欲しいって言ったの。『加奈は、守りそうだから、それはやっぱり申し訳ない』と。加奈ちゃんの幸せを願える男になりたいらしいわ」 ふふふと、おばさんは笑ったけど、私は笑えなかった。 「おばさん、ユキ、泣いてた? 私に言ったとき、泣いてた。 忘れないでって、キスのことより、たぶん、忘れないでいて欲しかったんだと思う。  消滅するのが、怖くて、無になるのが恐ろしいって。だから、忘れないって言ったの。それ以降も忘れないって。だから、約束を反故にしないで、私へのユキの遺言なの。大事な遺言なの。ユキを忘れないための大事な・・・」  私は号泣してて、上手く言えなくなった。  おばさんは、私の背中をゆっくりさすってくれた。 「ありがとう。  忘れないって言ってくれて嬉しい。  おばさんの方が先にボケて忘れてしまいそうだから、ユキの記憶を忘れないように定期的にユキのお話しましょう。  私の知ってるユキと加奈ちゃんの知っるユキのお話」 「うん、ユキがおばさんにその話したのは、びっくりした。私とだけの秘密だと思ってた」  笑いながら、おばさんとユキの話をたくさんした。お部屋はあんまり片付けなかった。
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