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8 side加奈子⑤
お風呂のお湯が冷めてきた時、浴室がノックされた。お湯はすっかりぬるくなってた。
「大丈夫?」
「大丈夫、もうでるよ」
慌てて浴室をでる。身体を拭いて、着替えるが、男ものボクサーパンツと、スウェットの上だけ。はぁ。
この格好で、洗濯機が終わるまで過ごすのかと思うと、気が滅入るが諦めて、洗面所を出ると、ソースの匂いする。お腹空いてたのを思い出した。
「陸兄、これ、エロいし、しかも、まだ寒い時期だから、ズボン貸して」
「えー、その格好がいいのに」
「・・・お願いします」
「いいよ、キスしてくれたら」
「陸兄、キス魔だったの?」
「加奈子にだけだよ」
「・・・」
私は、陸兄に近づいて、頬にチュとキスをした。陸兄は、不満そうな顔をして、私の頬を両手で挟んでそっと優しいキスをした。
恋人同士みたいな雰囲気に、どぎまぎしてしまう。 私が固まってると、陸兄は、タンスから、スウェットのズボンを出してくれた。ウエストにヒモが付いてたから、ギュとしばって、裾は三回折り曲げた。
陸兄は、焼きそばを作ってくれてて、2人でそれを食べた。
2人で、ユキの話をしてると、ユキが一緒にいるよう気がしてきた。ユキがこの空間にいるかも知れない空気感に懐かしくて涙がでた。陸兄が、私を優しく抱きしめてくれて、また、私にキスしてきた。
「雪斗が居なくなって、加奈にいっぱい酷いことした。ごめん」
「私も本当に嫌だったら、逃げてたよ」
「逃げたじゃん」陸兄は、辛そうな顔をして笑ってる。
「今なら、大丈夫だけど。
あの時、私、中学生だよ。初めての時、陸兄、避妊しなかったし、そのあとも、完璧とは言いがたかった。
私はいつ妊娠するか、怖かったよ」
陸兄が切なそうな顔をする。
「ごめん。
でも、彼氏出来たから別れるって言われて、俺もショックで女性不信になった」
陸兄の言葉が理解できなかった。別れる?女性不振?どういう意味だろう。
「え、、、別れるって、付き合ってなかったよね。彼女もいると思ってた」
「そんな、、、初めての時・・・」
陸兄は、苦しそうな顔をしてた。そして、バツがわりそうな顔をして、頭を抱えてた。
「凄い痛がって嫌がったから。
『責任とるから、結婚するから、初めてを頂戴』って言った。
だから、プロポーズとまでは、いかなくても、その時から、付き合うことになったと、思ってた。
それに、その時は、彼女はいなかったよ」
陸兄は、顔を赤くして、恥ずかしそうに言った。
「ま、全く、覚えてない。
痛い、記憶しか、ない」
びっくりしたけど、あんなに辛かった時期が本当は、両想いだったなんて。笑えてきた。
「ふふふ、あの時、両想いだったんだ。
私、片想いだとずっと思ってた」
「キスは拒否するし、彼氏はつくるし、俺の暗黒時代だよ」
ああ、そうか、これはあの頃の陸兄の暗黒時代のリベンジなのか。だから、婚約者がいても、昨日、私を抱いたのか、そう思うと、あの頃の片想いと今の気持ちがリンクして胸が痛くなる。
「でも、何で片思い?
お袋にも雪斗にも、俺の気持ちはバレバレだったのに。雪斗と加奈子が付き合ってるって、聞いて、ずいぶん落ち込んだし」
「えっ、何でって、陸兄には、高校に彼女がいて、私の事は妹みたい思ってるって、ユキが」
ユキ、私に嘘ついてたんだ。こんなにバレない嘘つくとは、やられた。ユキ、最高だね。
こんなに時が経ってても、ユキの影響が色濃く残っていることが、騙されたことより、嬉しく感じる私は、ちょっとおかしいかも。
おばさんが、ユキの話は、いつも笑いながら話す感じがわかる気がした。
「雪斗、加奈子にそんなこと言ってたのか。
加奈子を独占したかったんだな。
あんまり、家族に愚痴とか、言えなくなってたから、加奈子だけは、離したくなかったんだと思う。
雪斗、父さんと母さんのために、辛い治療を最後まで、諦めなかった。
代われるなら、代わってあげたいと、家族、皆が思ってたから」
「ユキに伝わってたよ。家族全員が自分が代わりたい、俺が可愛そうだって思ってるのが凄く伝わってくるって言ってた。
だけど、もし、神様が誰かに代われるよ、選びなさいって言われたら、誰も選ばない。やっぱり、自分が引き受けるって、父さんや母さん、陸兄が辛いのはみたくないって」
陸兄が泣いてて、私はそっと抱きしめた。ああ、あの時も、今も慰め方は、どうしたらよくわからない。何も言えず、抱きしめるだけの私に、陸兄はキスをした。
「母さんが、七回忌までの雪斗との約束の話をしてくれたんだ。
ああ、だから、キスは拒否されたんだって納得した。
でも、あの時は、雪斗とのファーストキスの想い出を上書きされたくなくて、キスは拒否されてると思ってて、嫉妬してぐちゃぐちゃになってた」
陸兄が、震えて私に縋り付いてくる。言葉に出来ない想いが伝わってきた。
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