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先を促す顔に、幸雄は意を決して口を開く。
「今父は、家にいないんです」
「いないって、どういう」
今度は弱い声を返してきた。
「いないんです。買い物に行ったきり、行方不明で」
非難を覚悟して幸雄は言った。視線を下げ、渡辺の言葉を待つ。
息を呑む音がした。彼女の顔は見えない。
「早く見つかると良いですね」
その声が、思ったよりも遙かに優しかった。
顔を上げると渡辺は微笑んでいた。その表情のどこにも非難の感情は見つからない。
「沢田さんが気の済むようにしてほしいと思います。だから、探してあげてください」
その声は、想像したより遙かに優しかった。
顔を上げると敦子は微笑んでいた。その表情のどこにも非難の感情は見つからない。
「幸雄さんが気の済むようにしてほしいと思います。だから、探してあげてください」
「そんなのは、無理です」
敦子は眉をひそめたが、辛うじて笑みを保っている。
「帰ってきたって、うちにはもう父を養う余裕はないんです。俺一人が暮らすので精一杯です。俺に介護なんて無理です」
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