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声の沈鬱さからある程度予測はついていたが、小さくない衝撃に幸雄は言葉を失う。大人のいじめのようなことを、父がしていたとはすぐに受け入れられない。それは自分が最初の仕事を失う要因の一つだったのだ。
「でも結局、沢田さんと息子の自殺の間に、因果関係は立証されませんでした」
渡辺は首を振りつつ言った。不思議と憤りや悲しみといったありきたりな感情は見えてこない。その仕草の奥には何故か困惑が見える。
「沢田さんもそれで済んだわけではなく、会社を辞めたと聞いています。その辺りのことは、やはり言っていませんでしたか?」
幸雄は頷いた。そして家族として情けないような思いがわき出てくる。
父にしてみれば、知られたくない不名誉なことであったのかもしれない。あるいは、家族に罪を背負った姿を見せたくなかったのかもしれない。先行き不透明な状況で事実を知ったらどんな反応をしただろうか。
出勤時刻や帰宅時間も変わっていたのはわかっていたが、仕事を変えたためだとはついに言わなかった。その背景まで想像することはできず、その力もなかったのが当時の自分であった。
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