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第一章 6
どこか遠くで子供の声がする。甲高く、ひたすら楽しそうな声だ。青く遠い空に吸い込まれていくように澄み切っている。
声の澄み具合があまりに深く、頭が痛くなるほどだった。幸雄は眉根を寄せながら体を起こす。枕元の時計は朝九時を指していた。
リビングまで降りていく。その間、やはり他人の気配はない。
雨戸を閉めきった部屋の中で、手探りで鍵を見つけて開く。冷たい風とまぶしい日差しが注ぎ込んで、幸雄の気分も少し晴れた。
食事と着替えを済ませた頃には十時近くなっていたが、今日は単発のバイトが一つだけで、それも昼頃から夕方までの半日だけだ。何度か行ったことのある携帯電話の組み立て工場で、半日だけ入ってくれと派遣会社の担当者から頼まれたのは昨日のことである。あまり良い思い出のない場所だったので行くのは億劫だが、収入はひどく落ち込んでいるので、仕事が準備されるなら是非もなかった。
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