第一章 6

2/26
前へ
/299ページ
次へ
 契約社員の仕事を失って二ヶ月が経っている。年が明けても新しい仕事はない。就職活動を止めてしまったから当然だが、日雇い派遣だけをこなして食いつなぐ暮らしである。仕事を探しにハローワークへ行く気力もないし、腰が疲れてしまうから長時間働くのも厳しい。これ以上失敗にのたうち回るのも嫌だった。  その働き方だけでは当然毎月の収支はマイナスになるので、貯金を切り崩す生活が続いている。十二年前、世界的に不景気になった頃にも同じように日雇いのバイトだけで食いつないだことがあるが、当時は一ヶ月の収支が二万五千円だった。今はそれに匹敵する収入の低さで、今まで貯めた分がなければ死を覚悟するところだった。  工場では休憩時間が終わるのを見計らって働き出した。喫煙所ではどんよりした目をした工員たちが一心不乱に煙草を吸っていて自然に足は遠のく。その喫煙所の工員たちと同じ班で働くが、一切言葉を交わさないにもかかわらず疲れる。他人に活力が吸い取られるのを実感しながら、幸雄は夕方まで働いた。
/299ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加