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自転車での行き来の中で、いつも通っていた駅前を通り抜ける。その直前、銀行が目に入った。明弘が開店を待つと言って座り込んだ店舗である。ATMがまだ稼働しているからわずかに出入りはあるが、十分間で一人来るだけだった。
明弘はどこにもいない。ATMコーナーにも、家にも。
明弘が姿を消して一ヶ月が経つ。周りを時々は探してみるが、見ず知らずの他人に訊くことはできず、警察への捜索願も出していない。結果、明弘の行方は杳として知れず、年を越してしまったのだった。
明弘は預金通帳を残して失踪した。そして幸雄は、口座の暗証番号を知っている。いざとなれば、そこから生活費を引き出すこともできる。実際、そうしようとしたことがある。通帳とカードを持っていき、暗証番号を入力して、引き出す金額を入力する画面を呼び出すところまでは到達した。
どうしてもそれ以上先へ進むことはできずに結局撤退した。結局幸雄は、足りない分を自分の貯金から補填することを選んだ。
慎ましやかに生きていれば、出費は抑えられる。この二ヶ月間、暖房にかかる電気代が増えたとはいえ、一ヶ月の生活費は十二万円ほどで済んでいる。
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