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母
わたしはいつも孤独だった。
女学校を卒業し、20の時に旦那の元へ嫁いできたので、わたしは家族のためだけに生きていた。
沢山尽くした。旦那のために毎日家事をし、娘のために毎日愛情を注いだ。
結果旦那は出世し管理職となり、娘は立派に育った。妻として、母として誇らしかった。
だがそれは、自分自身の首を絞めただけであった。旦那は年々帰りが遅くなり、仕事の疲れもあり話をする時間すらなくなった。娘はキャリアウーマンとしてバリバリ働き、嫁に行くと、実家へなかなか足を運ばなくなった。初めは孫を見せにきてくれたものだが、孫が社会人となってからは遊びにも来なくなった。
わたしは独りだった。
あんなに愛して、大事にしたのに。
結局手元には何も残っていないのだった。
悲しくて、悲しくて。とにかく誰かといたかった。
すると、ある時不思議なことが起こった。
わたしが街を歩いていると、娘の美波が倒れていたのだ。幼い姿をしていたが、美波そっくりの、いや、美波にしか見えない女の子であった。
わたしは混乱した。美波は、もう大人になったのではなかったのか?
肩を叩いて、美波、美波、と呼びかけると、美波はゆっくり目を覚ました。しばらく呆然としていたようだが、すぐにこちらに向かってニコッと微笑んだ。
ああ、わたしは何を勘違いしていたのだろう。
わたしの娘は、まだこんなに幼いではないか。愛してやらなきゃ、わたしが、沢山。
「もう昼ごはんの時間だよ」
そうわたしが声をかけると、「はい、お母さん」と微笑み、美波はわたしの手を取り家路についた。
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