清潔な鳩

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 泥まみれで死んでいる白鳥を、近くに落ちていた木の枝の先でかずきくんが突く。はやたくんがようじくんの後ろから、ねえ、それ死んでんの? と半笑いで訊ね、死んでるっしょ、だって動かねえもん、とかずきくんがはやたくんよりもわかりやすい笑顔で言った。ようじくんがここにいる全員へ向け、埋める? と提案したが、すかさずあやねちゃんが、鳥ってたくさんの病気を持っているから触らないほうがいいんだよ、人間が触ると変な病気が移って死んじゃうんだよ、と止めに入る。おかしな病気になって死ぬのは怖いので、全員あやねちゃんに従い、わたしたちは白鳥を埋めることもなくその場を後にした。  あやねちゃんがかずきくんに、帰ったらちゃんと手洗った方がいいよ、変なバイ菌が木の枝からかずきの手に移動してるかも、と彼を脅す。かずきくんは、まじかよ、と怯えたように呟き、ポケットから青いチェック柄のハンカチを取り出して何度も右手を拭った。 「ねえねえ、なんであの白鳥は死んだのかな」  わたしがぽつりと呟く。  途端にみんなはものすごい勢いでわたしの顔を覗き込んで、それから全員、ぽってりとした子どもらしい腹を抱えてげらげらと笑い出した。えー、みーちゃん、あの鳩のこと白鳥だと思ってたの! 白鳥が冬以外に見られるわけないじゃん! それに白鳥があんなに小さくて汚れてて、首だってあんなに短いわけないじゃん! あれ、鳩なんだよ! みーちゃんたら、子どもだなあ! みんなは口々にわたしの言葉を訂正し、同時、あの白鳥を鳩でしかないと嗤った。
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