彼女がついた二つの嘘。~モテない僕が、文学美少女に告白をされて付き合うまで。彼女がついた嘘には、切ない理由が隠されていた~

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「そんで気が付いたら、夜の公園にぽつねんと一人でいたと」 「そういうこと。なんなんだろうな、これ」  翌日の早朝。学校まで向かう通学路。  僕は親友の男子と一緒に、学校を目指し歩いていた。 「狸にでも化かされたんじゃねーの? お前」 「バカ言え。そんなわけあるか」  そんなもん非科学的だ、と笑い飛ばす。 「でも、なんでそこに居たのか、まったく覚えてないんだろ?」 「それなんだよなあ……」  誰かと会う約束があって、家を出たような気はするんだよな。ところが、家を出たあとの記憶が、公園で我に返るところまで一切ないのだ。  ほんとうに、なんなのだろうか。  もしかして、若年性認知症だろうか。自分でも恐ろしくなって身震いした。  そのとき、ひしゃげたガードレールがある交差点に通りかかる。 「ああ、そう言えばさあ」と友人がガードレールに目を向け言った。「あいつが死んだのも、ちょうど今頃だったなあ」 「もう一年か。あれは不幸な事故だった」  桜山公園まであと数百メートルというこの場所で、クラスメイトの野村霧華が信号無視の車に撥ねられて命を落としたのだ。あの日は僕も、妙な手紙で公園まで呼び出されていたから、今でもよく覚えている。  あの手紙、差出人は結局誰だったんだろう? 一年経っても誰も名乗り出てこないところを見ると、やっぱりたちの悪いイタズラかなんかだったんだろうけど。  手紙。桜山公園。  でも──なんだろう。それらの単語に、何か引っかかりを覚えた。野村さんの姿までもが、ちらちらと脳裏を掠める。郷愁の念とよく似た、ほんのりとした切なさをともなって。  不思議な痛みをうったえる胸に手をそえ、僕は親友に話しかける。 「なあ」 「ん~?」 「今日の放課後なんだけどさ。野村さんの家に線香でも上げに行こうか」 「またどうした。突然」 「いや、今こうして思い出したのも、きっと何かの縁なのかなって」 「ん、そうだな」  と彼は言った。  その時どこからか、ちりん、という鈴の音が聞こえた。  どこか懐かしくて、切ない感じの音色だった。 ~END~
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