5 クラスが違うといいこともある

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 その席の主が学校に来ない机に行儀悪く脚を組んで座って、クラスのリーダー格の女子が悪口を言いふらしていた事を思い出す。  俺から見ても胸クソな光景だったけど、何もできなかった。机はひとつ空いたきりで新年度を迎え、女子グループはバラバラになって、いじめられていた子もようやく保健室登校ができる様になったと聞いたけど、それ以上の事は知らない。    もし、彼女が中学時代いじめに遭っていたら。  ――近くの学校嫌だったから。  どうしよう、繋がる。いじめてきた奴らと同じ学校になんか行きたいと思わないだろう。  俺は仮説にしか過ぎないその考えにゾワゾワしてしまった。  しばらくシャーペンを回しながら考えた後、その思考に蓋をする。  少なくとも、今の彼女はいじめに遭っていない。  新しい人間関係を作って、前向きに高校生活を送ろうとしている――はずだ。  俺は――。  ずっと座る人がいないまま教室の中に置き去りにされた机が脳裏にちらつく。  もし何かがあったら、鈴木さんを守る。  優しい鈴木さんを、俺の彼女を、絶対に守る。  鈴木さんの予言通り翌日は英コミュの突発小テストがあって、事前に情報を仕入れられていた俺はなんとか危なげなくクリアする事ができた。    昨日考えていた事は触れない様にして、俺はその日の帰りに殊更明るい声で彼女に話しかけた。 「今日うちのクラスでも小テストあったよ。ほんと助かった!」 「やっぱりそうだったんだ。ふふ、よかったね」  お礼を言う俺に向ける彼女の笑顔は本物。春の日差しのような、ほんわりした笑顔だ。こっちの胸まで温かくなるこの笑顔が、俺は好き。 「それで、さ。今度買い物にいかない? 俺英語苦手で参考書とかも買わなきゃなーって思ってて。それに……と、図書館とかよりは喋れるし、さ」 「……うひゃぁー」 「ちょっ? 鈴木さん?」  奇声を上げてしゃがみ込んでしまった彼女に俺は慌てて自転車を止めた。  これは……あれだ。図書館デートしたときに服を褒めたときの反応に似てる。   「大丈夫? 俺、変なこと言った?」 「ううん、ごめんね、違うの。なんか、どうしよう、凄く嬉しくて。……あのね、鳥井くんがそうやって、私に気を遣ってくれるところ、凄く優しいなっていつも思うの。いやぁー、言っちゃった!」
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