5 クラスが違うといいこともある

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「え、別に気を遣って誘ってるんじゃないよ? 学校だとあんまりゆっくり喋れないし……その、ほら、『お試し』をどっちの方向に卒業するにしてもさ、お互いの事知らないと」 「う、うん、そうだね。ショッピング、楽しみだな。ちょうど、新しい服も欲しかったの」  赤くなった顔を見られたくないのか、彼女は顔を覆っていた。でもばっちり見えてる。耳が赤くなってるのがばっちり見えてるよ!  通学用のカバンを中身が潰れそうなくらい抱きしめて、鈴木さんは早足で歩き始めた。わかりやすい照れ隠しだ。    やばい、デートに誘われただけでこんなに喜んでくれるのってなんなんだろう。  誘ったこっちがめちゃくちゃ嬉しいんだけど。    「実を言うとうちの姉にさ、鈴木さんの事バレちゃって。ちょっとからかわれたけど、次はショッピングに行け、ってアドバイスしてくれて。なんか、姉が言うには俺って服の見立てが割とうまいんだって」 「そうなんだ、凄いね! あのね、本当にイメチェンしたくて、でもやっぱり自分で選ぶといつも同じような服になっちゃうから。え、選んでもらえると、凄く嬉しいな」 「それじゃ、ちょっと電車に乗るけど藤川まで行かない? あそこだと駅前のOPEが凄く服が多いし……知ってる人に会う確率も低いし」 「日曜日でいい? 凄く楽しみ。……あのね、私、入学式の日に思い切って鳥井くんに告白して良かった」  そんなことを言う彼女の顔が、今にも泣き出しそうに嬉しそうで。  ふたりで歩くゴールの川左駅は目の前なのに、俺はそれ以上足が進まなくなって。 「……俺、多分あの時鈴木さんに告白されなかったら、3年間喋らない相手だったかもなって思った事がある。あの時はビビるほど強引だったけど、普段おとなしいし」  彼女が俺の言葉に振り向いた。戸惑いながら俺を見つめる目が揺れている。  その目をまっすぐ見返して、俺は今の本当の気持ちを彼女に告げた。 「だから、今こうやって話したりするようになって、少しずつ鈴木さんの事知る度に、『あの時声を掛けられて良かった』って思うんだ。――昇降口の26番目でも」 「あ――」  彼女は何かを言いたげに少し声を出したけど、それ以上の言葉は続かなかった。  昇降口の26番目でもいいんだ。きっかけがそれでも、それが「運命の人」の印だったなら。
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