2 根本からずれてる

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 俺たちの通う県立雪見台高校は自転車通学率99.8%と言われていて――要するに、物凄く電車・バス通学の便の悪いところに学校があるのだ。  あまりにも不便な場所にあるから、偏差値レベルがちょうど良くても、通学しにくい人間は別の高校に行く。自転車で通えると判断した人間だけが、偏差値より分厚い壁を突破して通う。  そんな高校。 「何駅使ってるの?」  しかも、ふたつの駅のちょうど中間にあるときた。  「川左(かわさ)駅です」  おっふ、俺の家と反対側じゃん……。  でも、徒歩なら尚更、送ってあげないと男がすたるだろ。  俺はそう気合いを入れて、自転車置き場から通学のために買ったばかりの黒い自転車を持ってきた。  鈴木さんは徒歩、俺は自転車を押して徒歩。少し冷たい風の中を、並んでゆっくり歩く。  困った、会話が続かない。  何を話したらいいんだ? ご趣味は? とかそういう奴? お見合いか! 「あの……」 「あのさ」  意を決して話しかけるとこれだよ! 俺たちタイミング悪い!? それともすっごい気が合ってるってこと!? 「あ、鳥井くん、どうぞ……」 「え、えっと、じゃあ俺から。えーっと、鈴木さんの趣味って何?」  結局頭を捻って出てきたのは、やっぱり「ご趣味は?」だった! 「趣味は、読書です。推理小説も、ファンタジーも何でも好きです。中学の時は1年間に100冊くらい図書室で借りてたくらい」 「へー、すっごい!」  俺が率直に褒めると、彼女はほろりと笑顔を見せた。 「鳥井くんの趣味はなんですか?」  こっちもご趣味は? だったよ。俺はうーんと頭を悩ませる。 「本はちょっとしか読まないけど、そうだなあ動画とか見たり、自分でも作ったりする、わりと好きかな」    本当は園芸が趣味だけど、さすがに地味すぎて言い難い。動画いじるのは本当のことだし。 「そうなんですか、凄い、動画作るの難しそうですね」 「それ」 「はい?」  ずっと感じていた俺の困惑のひとつ。  同級生なのに丁寧語!  きっとこれは早いうちに言わないとあかんやつ! 「あのさ、俺たち同級生だし、そ、その、一応だけど付き合ってるんだし、丁寧語やめない?」 「あっ、そうですね……そう、だね」  一度言ってから言い直してたけど、彼女はなんとかタメ口になってくれた。
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