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高校に入学してまだ一週間。入学式のときに満開だったグラウンドの桜は、少しずつ散り始めているものの、所々に花を咲かせている。
そして、隣の席の西山さんは、よくお腹が鳴る。
僕はこの一週間、毎日彼女のお腹が鳴ったのを聞いている。しかも、二限目ぐらいから。彼女はその度に耳まで真っ赤にしている。
よく食べる子なんだろうな、と思っていたけれど、昼休みにお弁当を覗き見したとき、机の上には小さなお弁当箱がひとつだけ。たくさん食べるのを恥ずかしがる女の子は多いけど、西山さんもそうなのかな。
そんなことをボーッと考えていると、ふいに彼女がすこし恥ずかしそうに話しかけてきた。
「ねえ、お腹にたまるものって、なんだと思う?」
唐突な質問に、思わず固まってしまった。そんな僕を見て、
「あのね、気付いてると思うけど、私、ご飯食べてもすぐお腹空いちゃって、すごくお腹が鳴っちゃうの。だから、少しでもお腹にたまるもの食べたいんだけど、自分じゃ思いつかなくって。って、いきなりこんなこと聞くなんて変だよね。まだ全然喋ったこともないのに。ごめん、今の忘れて!」
と早口でまくし立てる。
しばらく、といっても数十秒、気まずい空気が流れた。
「餅・・・・・・?」
「え?」
顔を真っ赤にしてちまちまとお弁当を食べていた彼女は、少し驚いたような表情をした。
「いや、お腹にたまるもの。餅って結構お腹いっぱいになるよなーって思って。」
「え、あ、ありがとう!ら、来週の朝いっぱい食べてみるね!」
「・・・・・・うん。」
その後も、すこし気まずい昼休みを過ごした。
翌週の朝。僕より早く登校していた西山さんは、教室に入ってきた僕の顔を見るなり、
「あのね、今朝はいっぱいお餅食べてきたの!」
と先週の気まずさとは打って変わって、ニコニコして嬉しそうに報告してくれた。思わず僕も口もとがゆるんでしまう。
「そっか。今日は鳴らないといいね。」
と冗談めかして言ってみた。彼女は
「もう!」
と言いながらも笑顔だ。
そして二限目。いつもならこのあたりで鳴るけど、今日は鳴らなかった。授業終わり、西山さんはぐっと親指を立てた。僕も同じ仕草でほほえんだ。
次は三限目。この時間も、無事に終わった。またぐっと親指を立てる。
そしていよいよ四限目。とうとう鳴らなかったと喜んだ授業終了三分前。
「ぐぅぅうううう〜」
ハッとして隣を見ると、西山さんは耳まで真っ赤にしてうつむいていた。そして僕のほうを向いて、その真っ赤なほっぺたを餅みたいにぷくっとふくらませたかと思うと、彼女は桜色の唇を動かした。
「う、そ、つ、き!」
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