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epilogue
私の顔を見るなり、柔らかくふわりと上がる口角。
さらりと透き通った肌は、私が触れたら溶けてしまいそうで、
夜空色の髪は飴細工みたいに繊細でつややかだった。
淡い記憶の中で私が覚えているのは
強く引き結ばれた彼の口角。
紅く染まる頬。
髪は雨に濡れて、より一層哀しみの色を濃く潤わせる。
ーそうだ、彼にこんな顔をさせてしまったのは私だ。
ふっと視線を落としたその先、彼の足元には踏みつけられた花束が落ちていて、
私の心臓は明らかに動揺したとでも言うように激しく鼓動を打つ。
その心臓の痛みと共に記憶の輪郭はぼやけ始めて、思わず私は目を瞑ろうとした。
その一瞬。
彼の瞳が私を捉えた。
ーごめんね…
言葉にした瞬間、堰を切ったように涙は止まらなくなり、私の視界は溺れたように濡れていく。
呼吸を整えるのに精一杯で、口にできなかった沢山の言葉が頭を駆けていった。
そんな私を見て彼は何かを言いかけて、
それから諦めたように、ふわりと笑った。
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