1.姉

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 翌年以降も父との約束通り年末年始は実家で過ごした。 「美恵ちゃん、いい人いないの? お仕事もいいけどそろそろ結婚も考えたら?」  毎年のように母は同じことを言い、「そういうの興味ないから」と私も同じ返事をする。父は無言でテレビを見ているだけだった。美愛はどうやら友達やら彼氏やらと遊び回っているらしく年末年始もあまり家にいない。母の話相手は必然的に私だけになってしまう。これがなかなか面倒だった。 「美恵ちゃん、お見合いしてみなさいよ」  一時期母は私に見合いをさせようと躍起になっていた。どこから持ってくるのか知らないが帰省するたびに見合い相手の写真を見せられる。あまりのしつこさに父から「美恵が嫌がってるのだからやめなさい」と言われてからは強要することはなくなったがまだ諦めていないようで、思い出したかのように電話がかかってきては見合い話をされた。  そうこうしているうちに私ももう三十路。母もいい加減諦めたのか最近は結婚しなさいと言う頻度がずいぶん減った。若くもない私に見合いの口もなくなったようで無理矢理写真を見せられることもない。  美愛は二十歳を過ぎ少しは大人になったのか以前のような露骨に嫌な態度を取ることはなくなったが相変わらず会話はほぼない。彼女の近況は母の愚痴とも自慢ともつかぬ繰り言から知るぐらいだ。 「美愛もなかなか同じ人と続かないのよねぇ。でも今お付き合いしてる人は結構長いのよ。このまま結婚してくれればいいんだけど」  ある年、帰省した私に母はそんな愚痴を言った。そうね、と気のない返事をして私は文庫本に視線を落とす。 「美恵ちゃんだってまだ結婚諦めることないのに」  また始まった、と私はうんざりした。母は結婚こそが女性の幸せと考えているが私はそうではない。仕事はやりがいもあって面白いしそもそも彼氏なんかできるはずもないと最初から諦めている。これからも一人気儘に過ごしていくつもりだ。そのための貯金もしている。 「私はいいのよ。母さんは美愛の心配だけしてれば? あの子どうせろくに就職活動もしてないんでしょ?」  美愛は、就職してもどうせ結婚したらすぐに辞めるんだからとろくに就職活動もしていなかった。 「そうなのよ。でもまぁ面接は得意みたいだからどうにかなるんじゃないかしら」 ――美愛は可愛いもの。  母はそう言いたかったのだろう。まぁ確かに見た目で採用を決める企業も多いようだからそういう意味では確かにどうにかなるのかもしれない。私は視線を上げることなく無言で小さくため息をついた。
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