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「おっぱいを揉まないと人類が滅亡するらしい!!」
四月一日の朝、俺は幼馴染のサッちゃんを家に招いて春休みの宿題を片づけていた。
「え? 急になに言ってるのアッくん?」
俺たちが通う中学校は春休みなのにプリント百枚とかいう頭おかしい宿題が出されているんだ。サッちゃんと一緒に少しずつ終わらせていたけど、もういい加減に限界だった。
「彼の有名な預言者・ノストラダゴン四十一世が残した文献にそう記されてたって今日の新聞に書いてあったんだ」
「誰なの?」
今日はエイプリルフール。騙され易いサッちゃんならエッチな嘘を真に受けてくれるかもしれないと期待していた。
「いいかよく聞くんだサッちゃん。おっぱいを揉まないと人はエ〇チできない! 〇ッチできないと子孫を残せない! つまり人類は滅亡する! Q.E.D!!」
「アッくん……」
サッちゃんは机にペンを置いて短く息を吐いた。流石にこの嘘は少々厳しかったか。
「それは大変だね!!!!」
「でしょ!!!!」
よかった馬鹿だった。
「じゃあ、アッくん! さっさとおっぱい揉んで人類を救っちゃって!!」
「いいの!?」
まさかここまで騙されてくれるとは! 純粋なサッちゃんを騙している罪悪感はあるけど、そんなことよりおっぱいが揉めるぜヒャッホーイ!!
「でも私のは恥かしいから、アッくんが自分のおっぱいを揉めば解決だよ!!」
「馬鹿野郎!!!?」
「!?」
俺は両手で机を思いっ切りバン!
サッちゃんの肩がびっくりして跳ねる!
「男のおっぱいはおっぱいじゃないって彼の有名な偉人・聖泰太下琴無子も言ってただろう!!」
「誰なの?」
俺は立ち上がると、悔しそうに拳を握る演技をしてサッちゃんを見る。
「人類を救うには、サッちゃんのおっぱいを揉むしかないんだッ!!!!」
「なんだって!?」
ピシャーン!
サッちゃんに衝撃が走る! 電流のごとく!
「そんな、私のおっぱいに人類の命運がかかってるなんて……」
「やっぱり恥かしい?」
「恥かしいよ」
顔を赤くし、胸を隠すように自分自身を抱き締めるサッちゃん。そんなサッちゃんに、俺はできるだけ優しく語りかける。
「恥かしがることなんてないよ。『おっぱいは、敵を友人に変えられる唯一の力である』って彼の有名な指導者・キリング牧師も言ってたし」
「誰なの?」
俺は真剣な眼差しでサッちゃんを見詰める。真摯に真剣に深刻に嘘を貫き通す。
サッちゃんは赤面したまま、上目遣いに俺を見詰め返した。
「私のおっぱい、小さいけどいいの?」
「いいともー!! 寧ろそれがいい!!」
「私のおっぱい、硬いけどいいの?」
「いいともー!! 多少硬くてもおっぱいはおっぱいだ!!」
「私のおっぱい、真ん中のぽっちを押すとミサイルになって飛んで行くけどいいの?」
「いいと……え?」
今、変な言葉が聞こえた気がした。
サッちゃんは相変わらず顔が赤いまま、もじもじしている。
「アッくんには黙ってたんだけど、実は私……サイボーグなの」
「なんだってッ!?」
ピシャーン!
俺に衝撃が走る! 電流のごとく!
まさかそんな、サッちゃんがサイボーグだったなんて。幼馴染なのに全く知らなかった。よく見たらサッちゃんのTシャツのロゴが、彼のサイボーグ開発で有名な株式会社・ソラネットになっているッ!
「サイボーグでも、おっぱいはおっぱいだよね?」
「そ、それは……因みにミサイルの威力って?」
「片方で地球が半分消滅するよ」
「俺の手に人類どころか地球の命運がかかってしまった……」
俺はおっぱいを揉みたい。でも、そのせいで地球が消滅してしまったら困る。
俺は、俺はどうすればいいんだーッ!?
「アッくん」
サッちゃんが混乱する俺の手を取った。
それから自分の胸へと近づけていく。
「ちょ、サッちゃんどうして俺の手を!?」
「揉まぬなら、揉ませてみせよう、ホトトギス。彼の有名な武将・乙波揉長の言葉だよ」
「誰なの!?」
「これは人類のため。人類のため。ジンルイノタメニ、ワタシハオッパイヲモマレマス」
なぜか急にサッちゃんが機械っぽい喋り方になった!?
もしかしてサッちゃんが騙されやすいのってサイボーグで人間の命令を聞いていただけなのでは!?
「待ってサッちゃん嘘だからおっぱい揉まないと人類滅亡とか嘘だからその手を放してーッ!!!?」
パッ!
ギリギリのところでサッちゃんは俺の手を放した。
命令を聞いてくれたのかと思ったが、サッちゃんの口からプッと息が吹き出す。
「あはははは! やーいアッくん騙されたー!」
「え?」
指を差されて笑われた。
一体どういうことなんだ?
「今日はエイプリルフールだもんね。私がサイボーグなわけないでしょ」
しまった。
サッちゃんを騙すつもりが、俺の方が騙されていたんだ。おのれ策士め!
「流石の私でもあんな嘘は真に受けないよ」
「だ、だよね。くそう、よくも騙してくれたな!」
「最初に騙そうとしたのはアッくんでしょ」
よかった。サッちゃんはサイボーグじゃなかったんだ。
これで人類は救われた。
「でも、そんなに私のおっぱい揉みたかったの?」
一通り笑ったサッちゃんが涙を指で拭いながら聞いてくる。
「そりゃあ俺だって男だし」
「私も男なのに?」
「え?」
「え?」
お互い見詰め合って沈黙。
俺が呆然としていると、サッちゃんは壁にかけてあった時計を見てゆっくりと立ち上がった。
「あ、そろそろ帰らないと。お昼からパパの会社でサイボーグ開発の職場見学するんだった」
「ちょ、サッちゃんちょっと待って!? どこから!? どこからどこまで嘘なの!?」
その日から数日間、俺は悶々としたまま眠ることができなかった。
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