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3:外の世界
高校を卒業し、それと同時に私は家を出、アルバイトを始めた。
施設から私を引き取り、深い愛情をもって“正常”な世界で私を育ててくれた叔父と叔母は、私が進学する気がない旨を伝えた途端、
「なあ茜、どうか遠慮しないでくれないか。茜は、茜がしたいことをしてくれたらいいんだ、僕らにはそれを応援する義務がある」
と私に縋った。彼らはやはり、父が私に行った仕打ちに対する罪滅ぼしをしていたいのだろうな。瞬時にそう思ったが、
「私、夢があるの。その夢のために私は大学に行かないって生き方を選びたいし、今は一人暮らしをして、アルバイトでお金を稼ぐっていう生き方をしたいな」
私は、嘘を吐いて彼らに抵抗した。
あのころ――小学二年生の私は嘘を吐くなんて最低・最悪の人間がする愚劣な行為であり、そんなことをすれば世界の全てから裁かれてしまうと思い込んでいた。けれど今はそんなものなど子どもによくある未熟な思想だったとしか思わない。
そう、あのころの私は結局、年相応に幼い子どもであり、父によって創られた、父の理想とする箱庭に閉じ込められていただけだったのだ。外、という世界を知った今の私は平然と嘘を吐くし、自分の父は異常だったと正しく認識できている。
彼らは私の言葉をあっさりと受け入れ、その後は楽しげに私が暮らすアパートを一緒に探し、引越しの支度を手伝い、細かな書類のやり取りまで進んで済ませてくれた。最後の夜には、私たちは三人家族だというのに叔父は五人前もの寿司を手配し、私の内臓がはち切れる寸前まで「たくさん食べるんだぞ」と繰り返し笑っていた。
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