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公園は誰もいなくて、しかも人が五人いたとしたら狭く感じそうだった。
私はそんな、人気のなくて目立たない公園に、一人で立って、滑り台を眺めていた。
そこから目線をすべりおろして、砂場に目を向けた。
ああ、そうだった。やっぱりこの砂場。
私と、彼の二人の、作品が生まれた地。
そう、あれは小学校二年生の頃、私が学校に行きたくなくて、ランドセルを滑り台の下に置いて、滑り台の上で、しゃがみこんでいた時。
「あ、もしかして、あんな?」
なぜか真昼間に、クラスで見たことのある男の子がやってきた。
名前は、その時は知らなくて、でもきっと二日後には好きになる人。
今思えば、私はちょろい。でも今も好きなまんまなんだから、ちょろちょろでいいや、私。
「うおー、このお城すげー」
滑り台の下の砂場に作られた、お姫様が住んでいるイメージの城を見て、男の子が言った。
「……」
私はお礼を言いたかった。初めて喋った男の子に。
でも、恥ずかしくて、ありがとうって言えなかった。
そうして目をきょろきょろさせた私が見つけたのは、砂場の端に咲く小さな花。
男の子が私と同じ方向を見た。
「うお、こんなところに花が咲いてる」
「うん」
「なんだか、学校じゃなくてこんなところにいる俺たちみたいだな」
男の子はそう言って、二輪の花を眺めた。
男の子は学校を抜け出して遊び回っちゃう「悪い子」だった。
私も学校を休んじゃう「悪い子」だった。
そんな悪い子同士が知り合って、十年。
いつの間にか、私たちは、長い付き合いの友達になっていた。
「うおー、懐かしい〜」
彼……佑がやってきた。
大学生になって、優等生にしか見えない。
そういう私だって、ここでうずくまっていた女の子なんかじゃないように、見えはするかもしれない。
周りとあまりうまくいかなかった昔の私と佑は、もちろんいろいろと変わっている。そりゃあ十年たったんだから。
その代わり、ずっと十年そのままなのは、彼への恋心だ。
「ねえ、佑こっちきて」
「ん?」
「私が今から砂場に何描くか、当ててみて」
「え、何? ナスカの地上絵?」
「ふふっ」
私は笑った。そういうのもいいかもね。
でもね、違う。
私は、砂場に、二輪の花の絵を描いた。 砂場の端には、今はあの時のように花は咲いていないから。 私が、花を咲かせることにした。
そして、
「ええいっ」
私はその二輪の花を、思い切って、大きなハートで囲った。
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