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僕の隣の席の女子の席は華やかだ。
はなやかという言葉の響き通り、とても花がたくさんある。
ただし全て造花だ。
あんまり何を考えてるかわからない人だけど、きれいなものが好きなのだろうか。
手先が器用みたいで、自分で作った、と少しだけ話した時に言っていた。
そんな彼女の造花の中でも一際きれいにできているように見えるものがある。
それは、彼女の胸についている、卒業式につけるような、ピンク色の花。
その花は普段は閉じている。
でも、不思議なことに、僕と話していると、気がついたら開いているのだ。
三つあって、三つとも。つまりは満開。
どういう仕組みなのかはわからないけど、そうなる。
そうすると、なんで僕だけ、となり、なんかもしかして僕だけ特別……? と考えてしまう。
そういうの自意識過剰でよくないよって冷静な自分も言うし、他の誰かにことことを話したってその人もそう言うだろう。
でも、今日も話していたら、開いた。
一つ二つ三つと、あっという間に。
どういう基準で開くのか、訊いてみてもいいのかもしれないって思った。
それだったら、変に思われないよな。
うん、そう訊いてみよう。
……次また話す時にでも。といっても、なかなか訊く機会はないんだろうな。でも、気になるからいつかは、尋ねたい。
ある日。僕は彼女と二人で下校した。
桜の並ぶ道で、彼女と話していたら、また胸元の造花が三つとも開いた。「それ、どういう基準で開いてるの?」
よし、訊いたぞ。
「え?」
彼女は自分の三つの桜が咲いている胸元を見つめてから、開花したばかりのような笑みを見せた。
「なんでだろう? わかんない。なんか予想とかある?」
そしてそう逆に訊いてきた。
そう来るのか。
きっと本当のことは知ってるのに。
「なんかたまに喋ってると開くなーって」
「ふふっ。そうなの?」
「そうだよ」
「じゃあもしかしたら、君が面白いこと言ってくれたら開くのかも」
「なるほど」
「え、なるほどって納得しちゃったの?」
「あ、いや」
「でもね、もしかしたら君がとびっきり面白いことを言ってくれれば、ずっと開いたままかも、この花たち」
「そうなの?」
「ねえ、言って欲しいな、とびっきり面白いこと」
「……よし」
わかったよ。
最高に面白いことを……。
僕たちの間に、桜の花びらがたくさん。
そう。この空間は、さくら色だ。
だから、僕は今なら言える。
「好きだ」
彼女の胸元の花は、ずっと、満開のままだった。
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