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「病巣が側頭葉下部から脳幹にかかる場所まで広がっています。この場所では手術ができません・・・。」
ひなたの頭の中、禍々しく広がる悪魔を指さしながら医者は俺たちに告げる。
すでに生命維持に関わる部位にまで病巣が広がり、切り取ることができないこと・・抗がん剤などでがん細胞が収縮すれば、現状予想しうる期間よりも長く生きられる可能性があること・・。
はっきりと言えるのは、どう治療すれば命が助かるのか・・寛解する可能性があるのか・・俺たちの望む答えを医者は用意できないということだった。
「あら、ひなたちゃん・・。今日も彼氏がお見舞い?うらやましい。」
看護師がひなたをまたからかう。
「だって・・いつもう会えなくなるのかわからないんですもん。少しでも一緒にいたいと思うのは当然でしょ?」
ひなたは笑顔で返す。
それはひなたなりのジョークだった。誰もが笑えないジョーク。
しかし、ひなたはまるで今日初めて言うかのように茶目っ気を含めて話す。
すでに、ひなたの脳はそんなことを判断できる、そして記憶しておける状態になかった。
「やめろよ・・ひなた。笑えないだろ・・。」
そして、いつものように俺は返す。
まるで初めて聞いたかのような顔をして、少し怒って見せて・・。
そして、いつも通り看護師も返す。
「お邪魔したら悪いから、早く仕事済ませて出ていくわね。」
そうしていつも通りの検温は終わった。
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